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医療コラム

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私が医師を志したきっかけ

「どうして医師になろうと思ったのですか?」
これまで、私はこういう質問に何度か遭遇してきた。
「わたしの祖母は目が悪く、眼科に行くときはいつも一緒でした。祖母の目を治すために医師になりました」
以前は当たり障りのないように、こう答えていたが、今考えると真実ではなかったと感じる。

確かに祖母は目が悪く、また両親が共働きだったため、祖母が眼医者や歯医者に行くときには、まだ幼かった私や妹は必然的に一緒だった。当時から両親は、私が医師になることを望んでいた。そのころ私が「医者になる」と言った時の二人のうれしそうな笑顔が、浪人生時代にはプレッシャーになることもあった。

しかし、否応なく医師を志すきっかけとなる出来事はもう少し後のことだ。

私が小学校4年生、妹が1年生くらいの頃だっただろうか、学校から帰ると、祖母が夕暮れの暗い台所で倒れていた。傍らには尿の水たまりができていた。当時のことはほとんど記憶にないが、この時の光景は、いまでも鮮明に覚えている。

私は祖母に何も言わず、ただいつものように隣の居間にあるテレビをつけ、祖母の近くで遠くのテレビを見ていた。内容はほとんど入ってこなかったが、固い台所の床で体操座りのまま、じっと。

すぐに妹も帰ってきた。彼女は祖母に声をかけ、体を揺すると、すぐさま異変に気付き、祖母に毛布を掛けた後、両親の職場に電話をかけた。

慌てた様子で彼らが戻る頃には、私は部屋で布団をかぶっていた。自分の耳でも心臓がドクドクしているのが聞こえていて、何か大変なことが起こっているのはわかっていた。

玄関がバチンバチンと何度か開閉した後、車のエンジン音が遠ざかる中で、私の鼓動は少しずつ収まっていったが、もう一つの感情が頭をもたげてきた。祖母の力になれなかった・・・、何もできなかった自分・・・。とても悔しかったが、なぜか涙は出なかった。

祖母は長期間の療養のあと、私が医学生になるのを見届けるかのようにして旅立った。

この時の祖母への後悔と懺悔の念が、医師への道を選んだきっかけだけでなく、人生におけるすべての決断において、最初の一歩を踏み出す際には、優しく、けれども力強く私の背中を押してくれたことは言うまでもない。

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