交通事故の後遺障害が認定されない理由と、治療中にできる5つの対策
- 2026年7月23日
- 交通事故
交通事故で後遺障害の認定を受けられる割合は、多くの方が想像するよりはるかに低いのが現実です。「治療を続けても症状が残っているのに、なぜ認定されないのか」この疑問を抱えている方は多いですが、認定されない原因には、症状そのものではなく「医療記録の内容」にあるケースがあります。
交通事故の後遺障害が認定されない5つの理由
後遺障害認定の審査は書面のみで行われます。審査する側は被害者に直接会うことはなく、提出された書類だけで判断します。つまり、いくら症状が残っていても、書類上でそれが伝わらなければ認定は得られません。
ここでは、非該当になる代表的な原因を5つに分けて説明します。
後遺障害診断書の記載が不十分
後遺障害認定の結果を最も左右するのが、医師が作成する「後遺障害診断書」の内容です。この診断書に記載されていない症状は、どれほど深刻であっても審査の対象になりません。
たとえば、首の痛みが残っていても、診断書に「頸部痛」とだけ書かれていれば、痛みの程度・日常生活への影響・発症時期との一貫性が伝わらないまま審査されます。診断書に書かれていない症状は「存在しない」のと同じ扱いになり、これが認定されない最大の原因です。
医師は治療の専門家ですが、後遺障害認定の基準に精通しているとは限りません。診察時に患者様が「まだ痛いです」とだけ伝えた場合、医師もそのまま端的に記載してしまうことがあります。症状を具体的に、かつ正確に伝えるのは患者様自身の役割でもあるのです。
画像検査や神経学的検査で異常所見がない
後遺障害認定では「客観的な証拠」が重視されます。レントゲン・CT・MRIなどの画像検査で異常が確認できれば、症状の医学的根拠として強い裏付けになります。
ただし、むちうち(頸椎捻挫)のように軟部組織の損傷が中心の怪我では、画像に異常が映らないことが珍しくありません。画像で異常が見つからなくても、ジャクソンテスト・スパーリングテスト・SLRテストなどの神経学的検査で所見が得られれば、14級9号の認定につながる可能性があります。
問題は、必要な検査を受けないまま診断書が作成されるケースです。画像検査だけで「異常なし」と判断され、神経学的検査が行われていなければ、本来得られたはずの所見が審査に反映されません。
治療期間が短い、または通院が不十分
むちうちなどで後遺障害14級を目指す場合、一般的に6ヶ月以上の通院期間が目安です。治療期間が短いと「症状固定に至っていない」あるいは「後遺障害が残るほどの症状ではない」と判断される可能性があります。
通院の頻度も審査に影響します。月に数回しか通院していない場合や、1ヶ月以上通院が途絶えた期間がある場合、「痛みが続いていたのであれば、なぜ通院しなかったのか」と疑問を持たれます。通院が2週間以上空くと、症状の継続性を否定される大きなリスクになります。
仕事が忙しいなどの事情があっても、最低でも週1〜2回の通院を維持することが重要です。
症状の訴えに一貫性がない
事故直後の診察で「首が痛い」と訴えていたのに、途中から「腰が痛い」と変わり、最終的に「首も腰も痛い」と記載を求める。こうした場合、どの症状が事故に起因するのか因果関係が不明瞭になります。
ただし、むちうちでは実際に痛む場所が変わることは珍しくありません。頸椎周辺の複数の組織(筋肉・靭帯・椎間板・神経根)が同時に損傷を受けていて、炎症の進行や神経圧迫の変化に伴い、痛みの中心が首から肩、背中へと移ることがあります。首をかばう姿勢を続けた結果、腰に負担がかかって二次的な痛みが出るケースもあります。
つまり、痛みの場所が変わること自体は医学的におかしなことではないのです。問題は、その変化がカルテ上でどう記録されるかです。
「首が痛い」→「腰が痛い」と部位だけが切り替わるように記載されると、審査では「症状に一貫性がない」と判断されます。実際には首の痛みが続いたまま腰にも広がったのであれば、「首の痛みは継続しており、加えて腰にも痛みが出てきた」と、既存の症状を維持したまま新しい症状を追加する形で医師に伝えることが大切です。
事故の規模と症状の程度が釣り合わない
追突の衝撃が軽微な事故で重い後遺障害を主張した場合、事故の規模と症状の程度に乖離があるとして非該当になることがあります。
これは「嘘をついている」と疑われるという意味ではありません。事故の物理的な衝撃に対して、医学的に説明がつく範囲の症状かどうかが審査されるということです。軽微事故であっても、MRIで椎間板の変性が事故前から存在していた場合など、個別の事情が認定に影響を与えるケースもあります。
こうした状況では、事故と症状の因果関係を医学的に丁寧に説明する資料が必要になります。
後遺障害診断書の内容が認定結果を決める
後遺障害診断書は、症状固定時に医師が自賠責保険の所定書式に沿って作成する書類です。認定の審査はこの診断書の内容がすべてといっても過言ではなく、どう記載されるかが認定の可否を分けます。
自覚症状の伝え方が認定結果を左右する
後遺障害診断書には「自覚症状」という記入欄があり、ここに記載された内容が審査の出発点になります。記載されていない症状は審査対象にならないため、伝え方が極めて重要です。
医師に症状を伝える際は、以下の要素を整理してから診察に臨むと、正確な記載につながります。
| 伝えるべき要素 | 具体例 |
|---|---|
| 症状の部位と左右 | 「首の後ろから左肩にかけて」 |
| 痛みの質 | 「ズキズキする痛み」「ジンジンするしびれ」 |
| 症状が出る場面 | 「長時間のデスクワーク後」「朝起きたとき」 |
| 日常生活への影響 | 「重いものを持てない」「車の運転で首を回せない」 |
| 症状の継続性 | 「事故直後から現在まで常時痛みがある」 |
「首が痛い」だけでなく「何が・いつ・どう辛いのか」を具体的に伝えることで、診断書の記載精度が上がります。メモを作成して診察時に渡す方法も有効です。
整形外科に通院する意味
後遺障害認定において整形外科が重要なのは、画像検査・神経学的検査の実施と後遺障害診断書の作成、この2つをどちらも担えるからです。
整骨院やカイロプラクティックで施術を受けること自体は問題ありませんが、それだけでは後遺障害認定に必要な医学的記録が残りません。レントゲン・MRI・CTなどの画像検査、ジャクソンテストやスパーリングテストなどの神経学的検査、そして最終的な後遺障害診断書の作成はすべて、整形外科医の領域です。
整骨院と整形外科を併用する場合でも、整形外科への定期的な通院を途切れさせないことが認定に向けた基本条件です。
治療中にできる後遺障害認定のための5つの対策
後遺障害認定は症状固定後に申請するものですが、認定の成否は治療中の行動でほぼ決まります。症状固定になってから慌てるのではなく、治療の初期段階から意識しておくべきことを5つにまとめます。
事故後すぐに整形外科を受診する
事故から日数が経ってから初めて医療機関を受診すると、「本当に事故が原因なのか」と因果関係を疑われるリスクが高まります。事故当日、遅くとも翌日には整形外科を受診し、症状を記録に残してください。
事故直後は興奮状態で痛みを感じにくいことがあります。「大したことない」と思っても、数日後にむちうちの症状が出てくるケースは珍しくありません。自覚症状の有無にかかわらず、事故後はまず受診するのが原則です。
通院を中断しない
先述のとおり、通院に2週間以上の空白期間があると、症状の継続性を否定される材料になります。仕事や家庭の事情で通院が難しい日があっても、最低でも週1〜2回の受診ペースを維持することが重要です。
リハビリテーションの通院も有効です。理学療法士による施術は痛みの緩和だけでなく、「継続的に治療を要する状態だった」という記録を積み重ねることになります。ただし、整骨院のみの通院は医療記録として扱われないため、リハビリを行う場合も整形外科を定期的に受診し、医師の診察記録を途切れさせないことが前提です。
必要な検査を受ける
画像検査だけでなく、症状に応じた神経学的検査を受けておくことが認定に向けた重要なステップです。むちうちの症状が残っている場合、レントゲンで異常がなくても、MRI検査や各種神経学的検査(ジャクソンテスト、スパーリングテスト、深部腱反射検査など)で異常所見が得られることがあります。
どの検査を受けるべきかは症状によって異なります。主治医に「後遺障害認定を考えている」と伝え、認定に必要な検査として何が足りていないかを相談するのが最も確実な方法です。
症状を正確に一貫して伝え続ける
毎回の診察で、症状の部位・程度・日常生活への影響を具体的に伝えてください。
特に注意が必要なのは、症状を過小に申告してしまうケースです。「先生に悪いから」「もう少し良くなったと言わないと」と遠慮してしまうと、カルテには「改善傾向」と記載されます。すると、症状固定時に後遺障害診断書で「常時痛みがある」と書いてもらおうとしても、途中経過の記録と矛盾することになります。
つらい症状があるなら、そのまま正直に伝えることが、結果的に自分を守ることになります。
症状固定の時期を主治医と相談する
症状固定の判断は主治医が行いますが、保険会社から「そろそろ治療を終了してはどうか」と打診を受けることがあります。保険会社の言うタイミングが必ずしも医学的に適切とは限りません。
症状固定が早すぎると、十分な治療期間が確保できず非該当のリスクが高まります。逆に、症状がすでに安定しているのに漫然と治療を続けても、認定に有利に働くわけではありません。症状固定の時期は主治医の医学的判断を基準にします。
保険会社からの打診があったときは、主治医に相談してから判断してください。
後遺障害が認定されなかった場合の対処法
非該当の結果を受けても、それで終わりではありません。結果を覆すための手続きが用意されています。
異議申立て
最も一般的な対処法です。同じ自賠責保険の審査機関(損害保険料率算出機構)に対して、再審査を求めます。回数制限はなく、費用もかかりません。
ただし、前回と同じ書類を再提出しても結果は変わりません。異議申立てで結果を覆すには「前回になかった新しい医学的証拠」が必要です。具体的には、追加のMRI検査結果、新たな神経学的検査の所見、医師の意見書(医療照会への回答書)などが該当します。
異議申立てで等級の変更が認められる割合は高くありません。新たな資料を十分に準備できないまま申立てを行うケースが多いことが、成功率が低い一因です。医師や弁護士と連携し、「何が足りなかったのか」を分析してから再申請に臨むことが重要です。
紛争処理制度の利用
一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に調停を申し立てる方法です。費用はかかりませんが、利用できるのは1回のみです。書面審査で行われ、弁護士・医師・学識経験者で構成される紛争処理委員が判断します。
自賠責保険の審査機関とは別の第三者組織が判断するため、異なる視点からの審査を受けられるのがメリットです。
訴訟(裁判)
異議申立てや紛争処理でも結果が変わらない場合、最終手段として裁判所に訴訟を提起する方法があります。裁判では自賠責保険の等級認定とは独立に、裁判官が後遺障害の有無を判断します。
訴訟には時間と費用がかかるため、弁護士への相談が前提になります。ただし、後遺障害が認定された場合と認定されない場合では、受け取れる賠償金に大きな差が出ることもあります(14級の場合、慰謝料と逸失利益を合わせて数百万円の差になることもあります)。費用対効果を弁護士と相談したうえで検討してください。
事前認定と被害者請求、どちらで申請すべきか
後遺障害の申請方法には「事前認定」と「被害者請求」の2つがあります。どちらを選ぶかで、審査に提出される資料のコントロール度合いが変わります。
| 項目 | 事前認定 | 被害者請求 |
|---|---|---|
| 申請の主体 | 加害者側の保険会社 | 被害者本人(または代理人) |
| 手間 | 少ない(診断書を渡すだけ) | 多い(書類を自分で準備) |
| 追加資料の提出 | 保険会社に任せる | 自分で選んで提出できる |
| 認定前の保険金受取 | 不可(示談成立後に一括) | 可能(自賠責分を先行受取) |
事前認定は手間が少ない反面、提出書類を自分で選べません。診断書に不備があっても保険会社が指摘してくれるとは限らず、被害者に有利な追加資料を添付する動機もありません。
認定結果を左右できる可能性を高めたい場合は被害者請求を選ぶ方が有利です。自分で書類を準備する負担はありますが、弁護士に依頼すれば書類作成のサポートを受けられます。特に、むちうちなど画像に映りにくい症状で申請する場合は、被害者請求で医師の意見書や追加検査結果を添えて申請するメリットが大きくなります。
交通事故の後遺障害認定に関するよくある質問
後遺障害認定の申請にかかる費用はどのくらいですか?
自賠責保険への後遺障害申請(事前認定・被害者請求とも)には申請手数料はかかりません。費用が発生するのは、後遺障害診断書の作成料(医療機関により異なりますが5,000〜10,000円程度が目安)と、追加のMRI検査や神経学的検査の費用です。これらは交通事故に起因する検査であれば、後日保険会社に請求できる場合があります。
むちうちで14級が認定されるには、最低どのくらいの通院期間が必要ですか?
明確な最低期間は法令で定められていませんが、実務上は6ヶ月以上の通院期間が一つの目安とされています。6ヶ月未満で症状固定になると「後遺障害が残るほどの重さではない」と判断されやすくなります。ただし、期間だけでなく通院頻度の一貫性と症状の経過記録の連続性も重要なため、主治医と相談しながら適切な通院ペースを維持することが大切です。
後遺障害が認定されなくても慰謝料はもらえますか?
後遺障害が認定されなくても、通院期間に応じた「入通院慰謝料」は請求できます。ただし、後遺障害に対する慰謝料(後遺障害慰謝料)と、後遺障害による将来の収入減に対する補償(逸失利益)は受け取れません。この差は金額にすると数十万〜数百万円になることもあるため、非該当の結果に納得できない場合は異議申立てを検討する価値があります。
まとめ
後遺障害が認定されない原因の多くは、症状そのものではなく、医療記録の不備や通院実績の不足にあります。認定を左右するのは、治療中にどれだけ正確な記録を積み上げたかです。
事故後はできるだけ早く整形外科を受診し、通院を中断せず、症状を具体的に一貫して伝え続けること。これが認定に向けた最も確実な準備になります。すでに非該当の結果を受けた方も、新たな医学的証拠を準備することで異議申立てによる認定の可能性が残されています。
品川大井町整形外科・リハビリクリニックでは、交通事故による怪我の治療から後遺障害診断書の作成まで、整形外科専門医が一貫して対応しています。院内でのレントゲン検査と神経学的検査に加え、提携先の病院でのMRI・CT撮影にも対応しており、症状に応じた適切な記録を残すことが可能です。交通事故の治療や後遺障害認定について不安がある方は、お気軽にご相談ください。