交通事故後の肘の痛みは何が起きている?原因と整形外科での治療の進め方
- 2026年7月21日
- 交通事故
交通事故のあと、肘に痛みや違和感が残っていると、「骨が折れているのか」「靭帯を傷めているのか」と不安になります。肘は日常生活で腕を曲げ伸ばしするたびに使う関節であり、損傷の程度や原因によって必要な治療がまったく変わります。この記事では、交通事故で肘が痛くなる仕組みから、整形外科で行う検査・治療・リハビリの実際までを整理します。
交通事故で肘が痛くなる原因
交通事故の衝撃が肘に伝わる経路は、大きく分けて2つあります。
直接的な衝撃による損傷
事故の瞬間にダッシュボードやドア、ハンドルに肘をぶつけると、肘関節やその周囲の組織に直接ダメージが加わります。骨に直接力がかかれば骨折、関節面がずれれば脱臼、周囲の軟部組織が潰されれば打撲や腫れが起こります。バイクや自転車での事故、あるいは歩行中にはねられた場合は、転倒時に地面に肘を打ちつけて損傷するケースも少なくありません。
間接的な力の伝達による損傷
もうひとつ見落とされやすいのが、肘を直接ぶつけていなくても痛みが出るケースです。たとえば、衝突の瞬間にハンドルを強く握りしめていると、衝撃が手首から前腕を通じて肘関節に伝わります。また、転倒時にとっさに手をつくと、体重と衝撃のすべてが手のひらから肘へと集中し、靭帯や軟骨に大きな負荷がかかります。
このタイプの損傷は外見上の変化が少ないため、レントゲンだけでは見つけにくく、MRIや超音波検査で初めて判明することがあります。
肘のけがの種類と、それぞれの特徴
肘関節は上腕骨・橈骨(とうこつ)・尺骨の3つの骨と、それらをつなぐ靭帯・関節包で構成されています。交通事故では以下のけがが起こりえます。
骨折(肘頭骨折・橈骨頭骨折など)
肘を直接ぶつけたときに多いのが肘頭骨折(ちゅうとうこっせつ:肘の先端の骨が折れる)、転倒して手をついたときに多いのが橈骨頭骨折(とうこつとうこっせつ:前腕の外側の骨の上端が折れる)です。
骨折すると強い痛みと腫れが出て、肘の曲げ伸ばしが困難になります。骨のずれが少なければギプスや装具で固定する保存療法で治療できますが、ずれが大きい場合はスクリューやプレートで固定する手術が必要になります。
治療期間はギプス固定で3〜6週間程度、その後リハビリを含めて回復まで数ヶ月を要するのが一般的です。
靭帯損傷(内側側副靭帯・外側側副靭帯)
肘の内側には内側側副靭帯、外側には外側側副靭帯があり、関節を横方向の力から守っています。事故の衝撃で肘に横方向の力がかかると、これらの靭帯が伸びたり部分的に断裂したりします。靭帯損傷が起きると肘を動かしたときに不安定感が出ます。
曲げ伸ばしはできても物を持つとグラつく場合は靭帯損傷の可能性があります。軽度であれば装具固定とリハビリで回復しますが、完全断裂の場合は靭帯再建手術が検討されます。
脱臼
肘関節脱臼は、転倒して手をついたときに肘が過伸展(反りすぎる)して発生します。脱臼すると肘の形が明らかに変わり、激しい痛みで腕が動かせなくなるため、受傷直後に気づくことがほとんどです。整復(関節を元の位置に戻す処置)後にギプスで固定し、徐々にリハビリで可動域を回復させます。
脱臼と同時に靭帯損傷や骨折を合併していることも多いため、整復後にMRIやCTで合併損傷の有無を確認することが重要です。
打撲・軟部組織の損傷
骨折や脱臼を伴わない場合でも、肘周囲の筋肉・腱・滑液包が損傷して痛みが続くことがあります。特に肘の後面にある滑液包が炎症を起こす「肘頭滑液包炎」は、事故後の打撲をきっかけに発症することがあります。腫れや熱感があり、肘をつくと強い痛みを感じるのが特徴です。
多くは安静と消炎処置で改善しますが、液が溜まって引かない場合は穿刺(せんし:注射器で液を抜く処置)を行うこともあります。
整形外科で行う検査と診断の流れ
肘の痛みの原因を正確に特定するには、症状の聞き取りだけでは不十分です。画像検査で骨・靭帯・軟部組織の状態を確認し、損傷の種類と程度を客観的に把握する必要があります。
レントゲン検査
まず行うのがレントゲンです。骨折の有無や関節の位置関係を確認できます。ただし、レントゲンで写るのは骨だけです。
靭帯や筋肉の損傷、微細な骨折(いわゆるヒビ)はレントゲンだけでは判別しにくいため、レントゲンで異常なしと言われても痛みが続く場合は追加の検査が必要です。
MRI検査
MRIは骨だけでなく、靭帯・腱・軟骨・筋肉などの軟部組織を詳細に映し出します。「レントゲンでは骨に異常がないのに肘が痛い」という場合、MRIで初めて靭帯損傷や骨挫傷(骨の内部の微細な損傷)が見つかることがあります。交通事故の肘の痛みでは、靭帯の状態を確認するためにMRIを撮影するケースが多くあります。
超音波(エコー)検査
超音波検査は、診察室でリアルタイムに靭帯や腱の状態を確認できる検査です。肘を動かしながら靭帯のゆるみや断裂を確認したり、滑液包に液が溜まっているかを見たりできます。被ばくがなく、短時間で終わるため、経過観察にも適しています。
CT撮影
骨折が疑われる場合、CTでより詳細に骨の状態を確認します。特に関節内の骨折で骨片の位置や大きさを正確に把握する必要があるとき、手術の方針を決めるときに有用です。
交通事故後の肘の痛みに対する治療とリハビリ
治療は「急性期の痛みと炎症を抑えるフェーズ」と「関節の動きと筋力を回復させるリハビリのフェーズ」に分かれます。
急性期の治療(受傷直後〜数週間)
受傷直後は炎症と腫れを抑えることが最優先です。骨折や脱臼があれば固定(ギプス・シーネ・装具)を行い、痛みに対しては消炎鎮痛薬の内服や外用薬を使用します。腫れが強い場合はアイシングも並行します。
この時期は安静にして損傷部位に負荷をかけないことが基本ですが、固定していない部位(手首や肩)は積極的に動かしておくことが、のちのリハビリをスムーズにするポイントです。固定期間中に肘以外の関節まで硬くなると、回復に余分な時間がかかります。
リハビリテーション(固定解除後〜数ヶ月)
固定が外れたら、理学療法士の指導のもとで関節可動域の回復訓練を始めます。肘関節は固定期間が長くなると関節が硬くなりやすい(拘縮を起こしやすい)関節です。リハビリでは以下のような内容を段階的に進めます。
- 関節可動域訓練:肘の曲げ伸ばし、前腕の回旋(手のひらを上下に返す動き)を少しずつ広げる
- 筋力強化:軽い負荷から始め、上腕二頭筋・上腕三頭筋・前腕の筋力を回復させる
- 日常動作訓練:物を持つ、ドアノブを回すなど、生活で必要な動きを練習する
リハビリの頻度は週2〜3回が目安で、症状の改善に応じて通院間隔を調整します。骨折後のリハビリ期間は一般的に2〜4ヶ月程度、靭帯損傷の場合はリハビリを含めて3ヶ月〜半年程度が目安です。
交通事故の治療は自賠責保険の適用
交通事故によるけがの治療費は、加害者側の任意保険会社による「一括対応」(保険会社が医療機関に治療費を直接支払う仕組み)が成立すれば、窓口負担なく通院できます。整形外科での診察・検査・投薬・リハビリのすべてが対象です。
ベースとなる補償の枠組みは自賠責保険で、傷害分の支払限度額は被害者1名あたり120万円(治療費・休業損害・慰謝料・文書料などをすべて含む)です。加害者が任意保険に加入していれば、120万円を超えた分も任意保険でカバーされるのが一般的です。
受診時は、警察への届出を済ませた事故証明書の番号と、加害者側の任意保険会社名・担当者の連絡先を病院に伝えてください。加害者が任意保険に未加入の場合は、自賠責保険のみでの対応となり、医療機関によっては立替え後に保険会社へ請求する形になることもあります。
肘の痛みを放置するとどうなるか
交通事故後に肘の痛みを我慢して通院しないでいると、いくつかの問題が生じます。
関節拘縮(かたまって動かなくなる)
肘を痛みのために動かさない期間が長くなると、関節包や周囲の組織が硬くなり、関節の動く範囲が狭まります。これを関節拘縮と呼びます。肘の拘縮は一度進むと完全には元に戻らないこともあるため、早い段階で適切な治療とリハビリを始めることが、拘縮を防ぐ最も確実な方法です。
後遺障害と損害賠償への影響
交通事故で受けたけがが治療を続けても完治しない場合、「症状固定」の診断を受けたうえで後遺障害等級の認定を申請できます。肘の後遺障害は主に「可動域制限(機能障害)」と「痛みやしびれ(神経症状)」に分類されます。後遺障害等級の認定には、事故直後からの通院記録、画像検査の結果、症状の一貫性が重要な判断材料になります。
事故直後に受診しなかったり、通院の間隔が空きすぎたりすると、事故との因果関係が認められにくくなり、適正な賠償を受けられなくなるおそれがあります。
交通事故の肘の痛みに関するよくある質問
事故から数日経ってから肘が痛くなったのですが、受診しても大丈夫ですか?
受診してください。交通事故後にアドレナリンが出ている状態では痛みを感じにくく、数日後に症状が出てくることは珍しくありません。事故との因果関係の証明という面でも、できるだけ早く整形外科を受診して検査を受けることが大切です。
目安として、事故から2週間以上受診が空くと因果関係の証明が難しくなるため、できるだけ早い受診をおすすめします。
整骨院に通っていますが、整形外科にも行ったほうがよいですか?
はい。整骨院での施術は痛みの緩和に一定の効果がありますが、レントゲンやMRIなどの画像検査による診断、投薬、手術は医師にしかできません。また、後遺障害等級の認定に必要な診断書は整形外科の医師が作成するものです。
整骨院と整形外科の併用は可能ですが、定期的に整形外科で経過を確認してもらうことをおすすめします。
肘の痛みがあっても仕事は続けてよいですか?
痛みの程度と仕事の内容によります。デスクワークであれば問題ないことが多いですが、重い物を持つ作業や腕に繰り返し力がかかる仕事は、損傷を悪化させる可能性があります。主治医に仕事の内容を具体的に伝え、どこまでの動作が可能かを確認してください。
必要に応じて、勤務先に提出する診断書で業務制限の内容を記載することもできます。
まとめ
交通事故後の肘の痛みは、骨折・靭帯損傷・脱臼・打撲など原因がさまざまで、外見上の変化がなくても内部に損傷が潜んでいることがあります。レントゲンで異常がないからといって安心せず、痛みが続く場合はMRIや超音波検査で靭帯や軟部組織の状態まで確認することが回復への第一歩です。
肘の関節は固定期間が長引くほど硬くなりやすく、治療の開始が遅れるほど回復に時間がかかります。事故後に肘の痛みや違和感がある方は、早い段階で整形外科を受診し、正確な診断とリハビリの計画を立てることが大切です。
品川大井町整形外科・リハビリクリニックでは、院内でのレントゲン検査に加え、提携先の病院でのMRI・CT撮影にも対応しており、整形外科専門医の診断のもと、理学療法士によるリハビリテーションまで一貫して行っています。交通事故による肘の痛みでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。