交通事故で骨折したら整形外科へ。治療の流れとリハビリの進め方
- 2026年7月9日
- 交通事故
交通事故で骨折した場合、受傷直後の対応だけでなく、その後の通院やリハビリの進め方が回復を大きく左右します。骨がくっつくまでの期間は骨折した部位によって数週間から数ヶ月と幅があり、骨がつながった後も関節の動きや筋力を取り戻すリハビリが欠かせません。
この記事では、整形外科専門医の立場から、交通事故による骨折の治療過程とリハビリの実際、保険の仕組みまでを解説します。
交通事故で骨折しやすい部位と治療期間の目安
交通事故による骨折は、衝突の方向や衝撃の受け方によって折れる部位が変わります。ここでは整形外科の現場でよく診る骨折部位と、骨が癒合(くっつく)するまでの目安を整理します。
上肢の骨折(鎖骨・腕・手首)
追突事故でハンドルやダッシュボードに手をついた衝撃で、鎖骨・上腕骨・前腕(橈骨・尺骨)・手首の骨折が起こります。鎖骨骨折は交通事故で多い骨折の一つで、骨の癒合までおよそ4週間、その後のリハビリを含めた治療期間は3〜4ヶ月程度です。手首(橈骨遠位端)骨折はギプス固定で6〜8週間の固定が必要になり、固定を外してからの手首・指のリハビリが回復のカギになります。
下肢の骨折(大腿骨・膝・すね・足首)
衝突時に下肢がダッシュボードや車体に挟まれると、太もも(大腿骨)やすね(脛骨)、足首の骨折が生じます。大腿骨は体の中で最も太い骨のため癒合に時間がかかり、骨がくっつくまで3〜6ヶ月程度を要します。手術を行った場合はリハビリを含めて6ヶ月から1年程度の治療期間を見込む必要があり、歩行の回復には段階的なリハビリが不可欠です。
膝周辺(脛骨高原骨折など)や足首の骨折は癒合まで2〜3ヶ月程度ですが、関節面の骨折では関節の動きが硬くなりやすく、早期からのリハビリ介入が重要です。
肋骨骨折
胸部への衝撃やシートベルトの圧迫で肋骨が折れるケースは珍しくありません。肋骨は自然に癒合しやすい骨で、癒合まで1ヶ月半〜2ヶ月程度です。多くの場合はギプスや手術を行わず、バストバンド(胸部固定帯)で痛みを抑えながら安静にする保存的治療が中心です。
ただし、3本以上の肋骨が折れている場合や肺を損傷している場合には入院管理が必要になるため、レントゲンやCTでの正確な評価が欠かせません。
脊椎(背骨)の骨折
追突事故で頸椎や胸椎・腰椎を骨折することがあります。脊椎の圧迫骨折は高齢者に多く、腰や背中の強い痛みが主な症状です。圧迫骨折はコルセット固定による保存的治療が基本で、癒合まで2〜3ヶ月程度かかります。
破裂骨折のように脊髄や神経を圧迫するリスクがある場合は手術が必要になることもあり、MRIでの精密検査が判断の分かれ目です。
骨盤骨折
バイクや自転車での事故、歩行中の衝突で強い力が加わると骨盤が骨折します。骨盤は体幹を支える大きな骨のため、安定型であれば安静とリハビリで2〜3ヶ月、不安定型では手術を含めて6ヶ月〜1年程度の治療が必要です。骨盤骨折は内臓損傷や大量出血を伴うことがあるため、受傷直後はCT検査での全身評価が優先されます。
交通事故の骨折で整形外科が行う検査と診断
骨折の治療は正確な診断から始まります。整形外科では複数の画像検査を組み合わせて、骨折の型・ずれの程度・周囲の損傷を評価します。
レントゲン検査:骨折の有無と型を確認する
骨折が疑われるとき、最初に行うのがレントゲン撮影です。骨のずれ(転位)の程度、折れ方のパターン(横骨折・斜骨折・粉砕骨折など)がわかります。レントゲンは撮影から結果の説明まで数分で完了するため、受傷当日にその場で骨折の有無を確認できます。
ただし、レントゲンだけでは写りにくい骨折もあります。肋骨の不全骨折(ヒビ)や脊椎の微細な圧迫骨折は、受傷直後のレントゲンでは見落とされることがあるため、痛みが続く場合は追加の検査が必要です。
CT:骨折の詳細を把握する
CTは骨の断面像を撮影できるため、レントゲンでは判断しにくい複雑骨折・粉砕骨折の全体像を立体的に把握できます。手術が必要かどうかの判断、手術計画の策定にはCTの情報が欠かせません。骨盤骨折や脊椎骨折のように、骨折の形状が治療方針を大きく左右する部位では特に重要な検査です。
MRI:骨以外の損傷を評価する
MRIは骨だけでなく、靭帯・筋肉・軟骨・脊髄といった軟部組織の状態を映し出します。骨折に伴う靭帯損傷の有無、脊椎骨折で脊髄が圧迫されていないか、骨挫傷(レントゲンに写らない骨の内部損傷)があるかどうかを確認できます。交通事故の骨折では骨以外の損傷が併存していることが多く、MRIによる評価が治療計画の精度を上げます。
超音波(エコー)検査:筋肉や靭帯をリアルタイムで観察する
エコーは放射線を使わずに筋肉や靭帯の状態をリアルタイムで観察できる検査です。骨折に伴う筋肉の断裂や血腫の有無、リハビリ中の回復経過を確認する際に活用します。痛みのある部位にエコーを当てながら動きを見ることで、静止画だけではわからない機能的な問題を発見できるのが特長です。
骨折の治療方法は保存療法と手術の二択
骨折の治療は、大きく分けて「保存療法(手術をしない治療)」と「手術療法」の二つです。どちらを選ぶかは、骨折の型・ずれの程度・患者様の年齢や活動レベルによって医師が判断します。
保存療法(ギプス・装具による固定)
骨のずれが少ない安定した骨折では、ギプスや装具で骨折部を固定し、骨が自然にくっつくのを待つ保存療法が第一選択です。鎖骨骨折・肋骨骨折・手首の骨折(ずれが少ないもの)・脊椎の圧迫骨折などが対象になります。固定期間中は定期的にレントゲンを撮影し、骨の癒合状況とずれの進行がないかを確認します。
保存療法でも「固定して待つだけ」ではなく、固定していない関節や筋肉のリハビリは並行して進めることが大切です。たとえば手首をギプスで固定している間も、肩や指の運動を行って関節の拘縮(かたまり)を予防します。
手術療法(プレート・スクリュー・髄内釘)
骨のずれが大きい場合、関節面にかかる骨折、骨がバラバラに砕けた粉砕骨折などでは手術が必要です。手術ではプレートとスクリュー、または髄内釘(ずいないてい:骨の中に金属の棒を通す方法)を使って骨を正しい位置に固定します。
手術のメリットは、骨を解剖学的に正しい位置に戻した状態で固定できるため、手術翌日からリハビリを開始できることです。保存療法に比べて固定期間中の筋力低下や関節拘縮を抑えられるため、結果的に回復が早くなるケースがあります。
保存か手術かを決める判断基準
保存療法と手術療法のどちらが適しているかは、以下の要素を総合的に判断します。
- 骨折部のずれの大きさ:関節面のずれが2mm以上ある場合、手術を検討する
- 骨折の安定性:固定しても再度ずれるリスクがあるかどうか
- 患者様の年齢と活動レベル:仕事やスポーツへの早期復帰を希望する場合、手術で早くリハビリに移るメリットが大きい
- 骨折部位:大腿骨頸部骨折のように、保存療法では癒合しにくい部位がある
治療方針は初診時のレントゲン・CTの結果をもとに医師が説明しますが、迷う場合は「保存療法を選んだ場合のリスク」と「手術を選んだ場合のリスク」の両方を医師に確認しておくと、納得して治療を進められます。
骨折後のリハビリはいつから始めるか
骨折治療においてリハビリの開始時期は回復の速さに直結します。かつては「骨癒合(こつゆごう)=骨がくっついてからリハビリ」が常識でしたが、現在は骨折の処置をしたその日からリハビリを始めるのが標準的な考え方です。
急性期のリハビリ(受傷〜骨癒合まで)
骨折直後から始めるリハビリは、骨折部そのものを動かすわけではありません。骨折していない関節の可動域訓練、健側(ケガをしていない側)の筋力維持、ベッド上での体幹トレーニングなどが中心です。たとえば足の骨折で入院中であっても、上半身の運動や健側の脚の筋力訓練を行うことで、全身の体力低下を防ぎます。
手術を受けた場合は、手術翌日から理学療法士の指導のもとでリハビリが始まるのが一般的です。
回復期のリハビリ(骨癒合後〜日常生活復帰まで)
骨がくっつき始めたら、骨折部周囲の関節を動かす訓練、筋力強化訓練へとステップアップします。ギプスや装具を外した直後は関節が硬く、筋力も低下しているため、最初は痛みを伴うこともあります。リハビリの目標は「骨折前の動き」を取り戻すことであり、痛みの範囲内で少しずつ動かす量を増やしていきます。
通院でのリハビリは、回復期には週2〜3回の頻度が推奨されます。理学療法士がマンツーマンで関節可動域訓練・筋力強化・歩行訓練などを行い、自宅でのセルフエクササイズも指導します。リハビリの内容と頻度は骨の癒合状態と回復の進み具合に応じて調整するため、定期的な医師の診察が必要です。
リハビリ期間の目安と150日ルール
骨折のリハビリには保険適用上の期間制限があります。運動器リハビリテーションは発症日(受傷日または手術日)から150日間が保険適用の標準的な期間です。150日を超えても改善が見込まれる場合は医師の判断で延長が認められることがありますが、原則として150日以内に集中的なリハビリを行うことが求められます。
この期間制限を知らないまま通院を後回しにすると、リハビリに十分な時間を確保できなくなります。受傷後はできるだけ早い時期にリハビリを開始し、150日間を最大限活用することが大切です。
交通事故の骨折で使える保険と窓口負担
交通事故で骨折した場合、治療費の負担の仕組みは通常のケガとは異なります。自賠責保険・任意保険の使い方を知っておくと、窓口での支払いに関する不安を減らせます。
自賠責保険での治療費支払い
交通事故の被害者になった場合、加害者側の自賠責保険から治療費が支払われます。自賠責保険の傷害部分の上限は120万円で、治療費・通院交通費・休業損害・慰謝料がこの枠に含まれます。多くの場合は加害者側の任意保険会社が治療費を病院に直接支払う「一括対応」が行われるため、被害者が窓口で治療費を立て替える必要がないケースがほとんどです。
ただし、事故の状況によっては一括対応がすぐに始まらないことがあります。その場合は一時的に健康保険を使って3割負担で受診し、後から保険会社に請求する方法もあります。
健康保険と自賠責保険の使い分け
「交通事故に健康保険は使えない」と思われがちですが、交通事故でも健康保険は使えます。加入している健康保険組合に「第三者行為による傷病届」を提出すれば、通常と同じ1〜3割負担で治療を受けられます。
健康保険を使うメリットが大きいのは、過失割合がある場合です。被害者側にも過失がある事故では、治療費の一部を自己負担する可能性があります。健康保険を使えば総額が自由診療の場合より抑えられるため、自己負担額も小さくなります。
労災保険が使えるケース
通勤中や業務中の交通事故であれば、労災保険の適用対象です。労災保険を使うと治療費の窓口負担はゼロになり、休業補償(平均賃金の約8割)も受けられます。自賠責保険と労災保険はどちらを先に使うか選択でき、状況に応じて有利な方を選ぶことが可能です。
通勤中の事故であれば労災保険の適用を忘れずに確認してください。
骨折が完治しなかった場合の後遺障害と症状固定
骨折はすべてが完全に元通りになるとは限りません。骨はくっついたのに痛みやしびれが残る、関節の動きが制限されるといった後遺症が残ることがあります。
症状固定とは何か
「症状固定」とは、これ以上治療を続けても大きな改善が見込めないと医師が判断した時点を指します。症状固定の時期は骨折の部位と重症度によって異なりますが、受傷から6ヶ月以上が一つの目安です。症状固定は治療の終了を意味するのではなく、「回復の見込みがある段階」から「現状を受け入れて生活する段階」への移行点です。
症状固定後も痛みのコントロールやリハビリは必要に応じて続けますが、この時点で残っている症状が「後遺障害」として認定される対象になります。
骨折で認められやすい後遺障害
骨折に関連する後遺障害で多いのは、以下のパターンです。
- 関節の可動域制限:骨折前に比べて関節の動く範囲が制限されている状態。健側の4分の3以下に制限されている場合に認定の対象になる
- 骨折部の痛みやしびれ:骨は癒合しているが、天候の変化や動作時に痛みが残る状態。画像所見や神経学的所見で説明できることが重要
- 変形癒合:骨がずれた位置でくっついてしまい、外見上または機能上の問題が残っている状態
後遺障害の認定を受けるためには、治療中の経過記録(通院頻度・リハビリ内容・画像検査の推移)が重要な根拠になります。受傷直後から定期的に整形外科を受診し、経過をしっかり記録しておくことが、万が一後遺症が残った場合の備えになります。
交通事故の骨折治療で知っておきたい通院のポイント
治療を適切に受けるためには、通院の仕方にもいくつか押さえておきたい点があります。
事故後すぐに整形外科を受診する
交通事故に遭ったら、痛みが軽くてもできるだけ早く整形外科を受診してください。受傷直後は興奮状態で痛みを感じにくいことがあり、数日後に症状が強くなるケースは日常的に見られます。事故から受診までの期間が空くと、ケガと事故の因果関係の証明が難しくなるため、遅くとも事故後2〜3日以内の受診が重要です。
整骨院との併用は整形外科の指示のもとで行う
骨折の治療中に整骨院(接骨院)でのリハビリを希望される方もいます。整骨院への通院自体は認められていますが、骨折の診断・経過観察・治療方針の決定は整形外科の医師にしかできません。整骨院と併用する場合でも、月に1回以上は整形外科を受診して骨の癒合状況や回復度合いを医師に確認してもらうことが必要です。
保険会社への対応上も、整形外科の診断に基づいた通院記録が求められます。
通院頻度を維持する
骨折治療で意外と見落とされるのが、通院頻度の維持です。痛みが軽減してくると通院の間隔が空きがちですが、通院記録はのちの慰謝料計算や後遺障害認定に影響します。リハビリの効果を最大化するためにも、医師が指示した通院頻度を守り、定期的に受診を続けてください。
まとめ
交通事故で骨折した場合、回復の質を決めるのは「正確な診断」「適切な治療法の選択」「早期からのリハビリ」の三つです。骨がくっつくまでの期間は部位によって数週間から数ヶ月と幅がありますが、骨の癒合を待つ間も固定していない部分のリハビリを進めることで、回復後の機能低下を最小限に抑えられます。
骨折後の痛みや関節の動きに不安がある場合は、レントゲン・MRI・CTなどの画像検査で状態を正確に把握することが出発点です。品川大井町整形外科・リハビリクリニックでは、整形外科専門医による診断から理学療法士によるリハビリまで一貫して対応しています。交通事故によるケガでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。