交通事故の肺挫傷とは?症状の現れ方と治療から回復までの流れ
- 2026年7月28日
- 交通事故
交通事故で胸を強く打ったあと、「肺挫傷」と診断されたり、その可能性を指摘されたりすると、聞き慣れない言葉に不安が大きくなります。肺挫傷は胸部外傷のなかでも重症化のリスクがある怪我ですが、軽症であれば安静で回復するケースも多く、症状の程度によって経過は大きく異なります。
この記事では、肺挫傷の仕組み・症状・検査・治療・回復の流れと、退院後に気をつけるべきことまでを解説します。
肺挫傷とは何か
聞き慣れない診断名ですが、仕組みを知ると「体の中で何が起きているか」がわかり、治療の見通しも立てやすくなります。
肺の組織が「内出血」を起こした状態
肺挫傷(はいざしょう)とは、外部からの強い衝撃によって肺の組織が傷つき、肺の内部で腫れや出血が起きた状態です。わかりやすくいえば、肺の「内出血」です。皮膚の打撲では皮下にあざ(内出血)ができますが、それと同じ現象が肺の内部で起きていると考えてください。
損傷した肺の組織はうまく酸素を取り込めなくなるため、呼吸困難や胸の痛みが生じます。肺には裂け目(裂傷)がない点が特徴で、肺が破れて空気が漏れる「気胸」とは別の傷病です。
参考:肺挫傷について
軽症から重症まで幅が広い
肺挫傷は、損傷の範囲と深さによって経過がまったく異なります。軽症であれば自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに回復していることもあります。一方、広範囲にわたる肺挫傷では急性呼吸不全に陥り、集中治療が必要になることもあります。
つまり、同じ「肺挫傷」という診断名でも、安静だけで数日で治るケースから、人工呼吸管理が必要な重症例まで幅があるということです。損傷の範囲を画像検査で確認することが、治療方針を決める出発点になります。
交通事故で肺挫傷が起こる仕組み
肺挫傷は胸への強い衝撃が原因ですが、シートベルトやエアバッグで守られていても起こりえます。
胸部への強い衝撃が肺を傷つける
交通事故では、車同士の衝突やバイク・自転車での転倒により、胸に大きな外力が加わります。特に多いのは以下のパターンです。
- ハンドルやダッシュボードへの胸部の打ちつけ
- シートベルトが胸を強く締めつけたことによる圧迫
- エアバッグが展開した際の瞬間的な衝撃
- バイクや自転車での転倒時に胸を直接打ちつけるケース
胸の外から加わった衝撃が肺に伝わると、肺の組織内の毛細血管が破れて出血し、周囲の組織が腫れます。これが肺挫傷の発生メカニズムです。
シートベルトやエアバッグでも起こりうる
シートベルトは致命的な外傷から身体を守りますが、高速での衝突ではベルト自体が胸を強く圧迫し、胸骨や肋骨を介して肺にダメージが及ぶことがあります。エアバッグも同様で、展開時の爆発的なエネルギーが上半身に衝撃を与えることがあります。
事故後に胸の痛みや息苦しさを感じたら、軽く考えずに医療機関を受診してください。
肺挫傷の症状と現れ方
肺挫傷の症状には、事故直後から出るものと、時間が経ってから現れるものがあります。
主な症状
肺挫傷で見られる代表的な症状は以下のとおりです。
| 症状 | 内容 |
|---|---|
| 胸の痛み | 呼吸のたびに響く痛み。肋骨や胸壁の損傷をともなうことが多い |
| 息苦しさ | 肺が十分に膨らめず、酸素を取り込みにくくなる |
| 頻呼吸 | 1分間に25回以上の速い呼吸。酸素不足を補おうとして起きる |
| 血痰(けったん) | 痰に血が混じる。肺内部の出血が気道に出てきたサイン |
| チアノーゼ | 唇や指先が青紫色になる。血中の酸素濃度が大きく低下した状態 |
軽症の場合は、胸の痛み以外に目立った症状がないこともあります。
事故直後は無症状でも数時間後に悪化することがある
肺挫傷の厄介な点は、受傷直後には症状が出ず、数時間から24時間かけて徐々に悪化するケースがあることです。事故直後のレントゲンでは異常が写らないこともあり、「大丈夫だろう」と思っていたのに、帰宅後に息苦しさや血痰が出てくるパターンは実際に起こりえます。
このため、胸部に強い衝撃を受けた場合は、事故当日に症状がなくても油断できません。受傷後24〜48時間は経過に注意を払い、息苦しさや胸の痛みが増してきたら速やかに受診してください。
交通事故による肺挫傷の検査と診断
胸部に強い衝撃を受けた場合、肺挫傷の有無とその程度を確認するためにいくつかの検査を行います。
画像検査(レントゲン・CT)
最初に行うのは胸部レントゲン検査です。肺に出血や腫れがあると、レントゲン上で白いもやのような陰影として確認できます。
ただし、受傷直後は陰影が明瞭でないことがあり、肺挫傷の画像所見は受傷後24〜48時間かけて拡大するのが特徴です。そのため、最初のレントゲンでは見えなかった所見が、別の日の再検査で確認されることがあります。
CT検査はレントゲンよりも感度が高く、小さな肺挫傷や合併症(気胸・血胸など)の有無もより正確に把握できます。胸部への衝撃が大きかった場合や、レントゲンだけでは判断しにくい場合にはCTで精密に評価します。
血液中の酸素量を測る検査
肺挫傷の程度を評価するうえで、血液中の酸素がどのくらい保たれているかが重要な指標になります。
パルスオキシメーターは指先にクリップのように装着する簡便な機器で、血中の酸素飽和度をリアルタイムで測定できます。入院中は継続的にモニタリングを行い、酸素飽和度の低下がないかを見守ります。
より詳細な評価が必要な場合は、動脈血ガス分析を行います。これは動脈から直接採血し、酸素濃度(PaO2)と二酸化炭素濃度(PaCO2)を正確に測定する検査です。この数値は治療方針の決定や、後に後遺障害の等級を判定する際にも使用されます。
肺挫傷の治療と回復までの経過
肺挫傷の治療は、損傷の程度に応じて段階的に行います。
軽症の場合は安静と経過観察が基本
軽度の肺挫傷であれば、特別な処置を行わず、安静にして経過を観察するのが基本的な治療方針です。鎮痛薬で胸の痛みを抑え、深い呼吸がしやすい状態を維持します。痛みを我慢して浅い呼吸を続けると、肺の奥に空気が十分に届かず、無気肺(肺の一部がつぶれた状態)や肺炎を引き起こすリスクが高まるため、痛みのコントロールは治療の重要な柱です。
軽症であれば、一般的に数日から1週間程度で回復に向かいます。
中等症〜重症の場合は酸素投与・人工呼吸管理
損傷の範囲が広く、血中の酸素濃度が低下している場合は、酸素吸入が必要です。鼻や口からマスクで酸素を補いながら、肺の回復を待ちます。
酸素吸入でも血中の酸素濃度が十分に改善しない場合は、気管にチューブを入れて人工呼吸器で呼吸を補助する処置が行われます。重症例では集中治療室(ICU)での管理が必要になり、入院期間は数週間に及ぶこともあります。
退院後の生活とリハビリテーション
退院後は、日常生活への段階的な復帰を目指します。胸部の痛みが完全に消えるまでには数週間かかることがあり、その間は激しい運動や重いものを持つ動作を避けることが大切です。
入院中に体力が落ちた場合は、呼吸リハビリテーションとして深呼吸の練習や軽い有酸素運動から段階的に活動量を上げていきます。肺挫傷にともなって肋骨骨折や胸壁の損傷がある場合は、整形外科でのフォローアップも並行して行い、胸部の痛みと運動機能の両面から回復を支えていくことが重要です。
肺挫傷と併発しやすい胸部の外傷
交通事故で肺挫傷が起きた場合、肺だけが単独で損傷しているケースは多くありません。胸に加わった衝撃は、肺の周囲の構造にも同時にダメージを与えます。
肋骨骨折
肺挫傷とともに最も多く見られる合併損傷が肋骨骨折です。肋骨が2本以上折れている場合は、肺挫傷の範囲も大きい傾向があります。肋骨骨折自体が呼吸のたびに強い痛みを生じるため、浅い呼吸になりやすく、肺炎や無気肺のリスクをさらに高めます。
気胸と血胸
気胸は、折れた肋骨の断端が肺を傷つけたり、肺挫傷に伴って肺の表面に穴が開いたりして、胸腔(肺の外側の空間)に空気が漏れ出す状態です。漏れた空気が肺を圧迫するため、急激な息苦しさが起こります。
血胸は、同じ胸腔に血液がたまった状態です。気胸や血胸は肋骨骨折や肺挫傷と合併して起きやすく、症状が重い場合は胸腔にチューブを入れて空気や血液を排出する処置(胸腔ドレナージ)が必要になります。
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
広範囲の肺挫傷で最も警戒すべき合併症が、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)です。受傷後24〜72時間以内に発症することが多く、肺全体に強い炎症が広がって酸素の取り込みが著しく低下します。発症した場合は人工呼吸器による長期管理が必要になり、命に関わる重篤な状態です。
ARDSは肺挫傷の範囲が広いほどリスクが高まるため、受傷直後の画像検査で損傷の程度を正確に評価し、慎重に経過を見ることが発症の早期発見につながります。
肺挫傷の後遺症と後遺障害
肺挫傷は軽症であれば後遺症なく治ることが多い一方、重症例では呼吸機能に影響が残る場合があります。
後遺症として残りうる症状
損傷が広範囲にわたった場合や、ARDSを発症した場合には、回復後も呼吸機能の低下が残ることがあります。具体的には、階段の昇降や軽い運動で息切れしやすくなる、以前と同じ強度の運動ができなくなるといった症状です。
また、肋骨骨折を伴った場合は、骨折部位の痛みやしびれ(肋間神経の損傷による)が後遺症として残ることもあります。
後遺障害等級の認定と検査
交通事故による肺挫傷で呼吸機能が回復しきらなかった場合、後遺障害等級の認定を受けることで、損害賠償請求の対象になります。
認定にあたっては、「肺がどのくらい働いているか」を客観的に示す検査結果が必要です。具体的には、血液中の酸素濃度を調べる採血検査、息を大きく吸って吐く肺活量の検査、6分間歩いて息切れの程度を確認する検査などを行い、これらの結果を組み合わせて等級が判定されます。
後遺障害の等級は、日常生活でどの程度息切れがあるかと検査数値を組み合わせて判定されます。ただし、肺挫傷そのもので症状固定の時点まで血中酸素の数値に異常が残る例は多くなく、肋骨骨折にともなう神経損傷(14級)のほうが認定される傾向にあります。
後遺障害の認定を見据える場合は、症状固定まで定期的な検査記録を残しておくことが重要です。治療の経過と検査結果が記録されていれば、因果関係の証明に役立ちます。
交通事故の肺挫傷に関するよくある質問
肺挫傷で退院した後、運動はいつから再開できますか?
退院後すぐに激しい運動を再開するのは避けてください。軽症であれば退院から1〜2週間後、胸の痛みがほぼ消えた段階でウォーキングなどの軽い有酸素運動から始めるのが一般的です。肋骨骨折を伴っている場合は骨の癒合を待つ必要があり、再開時期が数週間〜数ヶ月遅れることがあります。
運動の再開時期と強度は呼吸機能の回復状況にもよるため、担当医の許可を得てから段階的に戻していきましょう。
肺挫傷の入院期間はどのくらいですか?
症状の程度によって大きく異なります。軽症で酸素投与が不要な場合は、経過観察のために数日の入院で済むこともあります。酸素投与が必要な中等症では1〜2週間程度、人工呼吸管理が必要な重症例では数週間以上の入院になることもあります。
入院期間は肋骨骨折や気胸など合併損傷の有無にも左右されます。
交通事故の治療費は自己負担になりますか?
交通事故が原因の肺挫傷であれば、加害者側の自賠責保険や任意保険から治療費が支払われるのが原則です。自分に過失がない場合は、窓口負担なしで治療を受けられるケースが多くなります。過失割合がある場合でも、自賠責保険の範囲内であれば減額されずに補償されます。
保険の手続きについては、受診時に医療機関の窓口でご相談ください。
まとめ
交通事故による肺挫傷は、軽症であれば安静で回復する一方、広範囲の損傷ではARDSなど命に関わる合併症のリスクがある傷病です。最も重要なのは、事故直後に症状がなくても、胸部に強い衝撃を受けた時点で医療機関を受診し、画像検査で肺の状態を確認することです。症状は受傷後24〜48時間かけて悪化する特徴があるため、早期の受診が重症化の見逃しを防ぎます。
交通事故後の受診先で迷っている方は、品川大井町整形外科・リハビリクリニックへご相談ください。院内でのレントゲン検査と提携先の病院でのMRI・CT撮影による精密な画像診断、およびリハビリテーションによる回復支援を一貫して行っています。
