交通事故の可動域制限とは?整形外科での治療と後遺障害認定に必要なこと
- 2026年7月24日
- 交通事故
交通事故のあと、「肩が上がらない」「膝が曲がりきらない」など、以前のように関節が動かなくなることがあります。この状態を可動域制限といい、骨折やむちうちの治療が一段落した後にもなお残る場合、後遺障害として認定される可能性があります。ただし、適切な認定を受けるには治療の経過を正しく記録し、専門的な測定を受ける必要があり、ここに整形外科の役割があります。
交通事故の可動域制限とは
可動域とは、関節が動く範囲のことです。たとえば肩を真横に上げたとき、健康な方であれば腕は耳の横あたりまで上がります。この動きの幅が事故前に比べて狭くなった状態が、可動域制限です。
交通事故では骨折・脱臼・靭帯損傷・軟部組織の損傷などを負うことが多く、これらの外傷が治った後にも関節の動きが元に戻らないケースが少なくありません。可動域制限は「痛みが引けば治る」ものではなく、関節内外の構造的な変化が原因で残るため、整形外科での診断と継続的な治療が必要になります。
可動域制限は、事故直後よりもむしろ治療が進んだ時期に顕在化することがあります。骨折が癒合し、痛みが和らいだ段階で「あれ、ここまでしか曲がらない」と気づく方は多いです。だからこそ、事故後の早い段階から関節の動きを定期的にチェックし、変化を記録しておくことが重要です。
可動域制限が起きる原因
可動域制限の原因は、大きく分けて3つあります。
関節や骨の構造的な損傷
骨折後に骨がずれた状態で癒合した場合(変形癒合)、関節面のなめらかさが失われ、関節の動きが物理的に制限されます。脱臼で関節包や靭帯が損傷した場合も同様で、関節を支える構造が壊れることで正常な可動範囲が確保できなくなります。
軟部組織の拘縮
骨に異常がなくても、関節周囲の筋肉・腱・靭帯・関節包が長期間の固定やギプスの装着で硬くなる(拘縮する)ことがあります。骨折の治療でギプス固定をしていた期間が長いほど、固定を外した後に関節が硬くなっている可能性は高くなります。拘縮は時間の経過とともに進行するため、固定期間中であっても可能な範囲でリハビリを始めることが望ましいです。
神経の損傷による筋力低下
事故で末梢神経が損傷すると、その神経が支配する筋肉に力が入りにくくなり、結果として関節を十分に動かせなくなります。この場合は関節そのものの問題ではなく、動かすための「力」の問題です。MRIや神経伝導速度検査で神経の状態を確認し、原因に応じた治療を行います。
整形外科での可動域制限の治療とリハビリ
可動域制限の治療は、原因の特定と、それに応じたリハビリテーションの組み合わせが基本です。
運動療法(リハビリの中心)
理学療法士の指導のもと、硬くなった関節を少しずつ動かしていきます。具体的には、ストレッチによる柔軟性の回復、関節可動域訓練(ROM訓練)、そして関節を安定させるための筋力トレーニングの3つを組み合わせます。
特に重要なのが他動的ストレッチです。自分の力だけでは動かせない範囲を、理学療法士が手で補助しながら少しずつ広げていきます。ただし、無理に関節を動かすと炎症が再燃して逆効果になるため、痛みの程度を確認しながら段階的に進める必要があります。
物理療法の併用
運動療法の効果を高めるために、温熱療法や電気刺激療法を併用します。温めることで筋肉の緊張が緩み、血流が改善するため、リハビリ前に行うとストレッチの効果が出やすくなります。レントゲンやMRI、超音波(エコー)検査で損傷部位を正確に把握した上で、一人ひとりの状態に合わせたリハビリプログラムを組みます。
手術が必要になるケース
骨の変形癒合で関節面がずれている場合や、関節内に遊離体(かけら)がある場合は、リハビリだけでは十分な改善が見込めないことがあります。このような場合は、関節鏡手術や骨切り術、人工関節置換術などの外科的治療が選択肢に入ります。手術が必要かどうかの判断は、画像検査の結果とリハビリの経過を総合的に見て行います。
可動域制限はリハビリで改善するか
結論から言えば、原因と開始時期によって改善の可能性は大きく異なるということです。
軟部組織の拘縮が主な原因であれば、適切なリハビリで相当程度の改善が期待できます。特に骨折後のギプス固定で硬くなったケースでは、リハビリ開始が早いほど回復は良好です。リハビリの期間は損傷の程度や部位によりますが、拘縮の改善には一般的に数ヶ月から半年程度の継続が必要で、重度の場合はそれ以上かかることもあります。
一方、骨の変形癒合や関節面の不整がある場合は、物理的に動きの上限が決まっているため、リハビリだけで元通りにすることは難しいことがあります。
ここで大事なのは、「改善する余地があるかどうか」を見極めることです。治療の早い段階でレントゲンやMRIで関節の状態を正確に評価し、リハビリで改善が見込める部分と、構造的に限界がある部分を分けて考えます。闇雲にリハビリを続けるのではなく、定期的に可動域を測定して改善が頭打ちになったタイミングを見逃さないことが、患者様の時間を無駄にしない治療計画につながります。
可動域の測定方法と正確に測定してもらうためのポイント
後遺障害の認定では、可動域がどの程度制限されているかを数値で示す必要があります。測定のルールを知っておくと、受診時にどのような検査が行われるかがわかり、結果に納得しやすくなります。
可動域測定の基本ルール
関節可動域の測定は、日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が定めた「関節可動域表示ならびに測定法」に基づいて行います。角度計(ゴニオメーター)を使い、5度刻みで測定するのが原則です。
測定には「他動値」と「自動値」の2種類があります。他動値は医師や理学療法士が手で関節を動かして測る値、自動値は患者様が自分の力で動かして測る値です。後遺障害の認定では原則として他動値が採用されるため、自分で動かした範囲ではなく、医師に動かしてもらった範囲が判断基準になります。
怪我をしていない側の関節と比べて判定する
可動域制限の程度は、怪我をしていない側(健側)の関節と比較して判定します。たとえば右肩を骨折した場合、左肩の可動域を基準にして、右肩がどの程度制限されているかを評価します。両側に怪我がある場合は、年齢・性別に応じた標準的な可動域角度を基準として用います。
| 動きの制限レベル | 具体的なイメージ | 後遺障害等級の目安 |
|---|---|---|
| ほとんど動かない | 怪我をしていない側の1割以下しか動かない | 8級 |
| 半分以下しか動かない | 怪我をしていない側の半分以下に制限されている | 10級 |
| 4分の3以下に制限されている | 怪我をしていない側の4分の3以下に制限されている | 12級 |
この数値は1つの関節についての基準です。複数の関節に可動域制限がある場合は、より上位の等級が認定される可能性があります。
測定で損をしないために患者様ができること
可動域測定は1回限りの数値で判断されるわけではありませんが、測定日のコンディションが結果に影響します。以下の点を意識してください。
- 測定前に体を冷やさない。筋肉が冷えた状態では関節が硬くなり、本来の可動域より小さい数値が出ることがある
- 痛みを我慢して無理に動かさない。他動測定でも痛みが出る手前で止めてよい
後遺障害認定に向けて通院中に気をつけること
後遺障害の認定を見据えた通院では、「治療を受ける」だけでなく「証拠を残す」意識が必要です。ここでは認定に直結する3つのポイントを整理します。
画像検査で損傷の原因を証明する
可動域制限が後遺障害として認められるには、「関節が動かないのは事故による損傷が原因である」と画像で証明できなければなりません。レントゲン・CT・MRIなどで骨折痕や靭帯損傷、関節面の不整などが確認できることが必要です。
「痛みがあるから動かない」だけでは、画像上の裏付けがなければ認定が難しくなります。事故直後はもちろん、治療の経過中にも適切なタイミングで画像検査を受け、損傷の証拠を残しておくことが極めて重要です。
定期的な通院とリハビリ記録の重要性
後遺障害の申請では「十分な治療を行ったにもかかわらず、症状が残った」ことが求められます。通院頻度が極端に少なかったり、リハビリを中断していた期間があると、「治療が不十分だったために改善しなかったのではないか」と判断されるリスクがあります。
整形外科に定期的に通院し、リハビリを継続しながら、その都度可動域の測定値を記録してもらうことが最も確実な対策です。通院の頻度は症状や治療内容にもよりますが、リハビリ期間中は少なくとも月2〜3回以上の通院が望ましく、可動域の測定は毎回の受診時に行ってもらうのが理想です。「いつ、どの関節が、どのくらい動いたか」が時系列で残っていれば、症状固定の判断にも、後遺障害診断書の作成にも大きな助けになります。
症状固定のタイミング
症状固定とは、「これ以上治療を続けても、症状の改善が見込めない状態」を指します。可動域制限の場合、一般的には事故から3〜6ヶ月以上の治療を経て、可動域の数値が数回の測定で横ばいになった時点が目安です。
ここで注意すべきは、症状固定は保険会社が決めるものではなく、主治医が医学的に判断するものだということです。保険会社から治療費の打ち切りを打診されても、まだ改善の余地があると医師が判断している段階で安易に同意するのは避けてください。主治医に現状の可動域と改善見込みを確認した上で判断しましょう。
交通事故の可動域制限に関するよくある質問
可動域制限があるのにレントゲンでは異常なしと言われました。後遺障害は認定されますか?
レントゲンでは骨の異常は写りますが、靭帯や軟部組織の損傷は写りません。MRIで軟部組織の状態を確認することで、画像上の根拠が見つかる場合があります。レントゲンだけで「異常なし」と判断されている場合は、MRI検査を受けることを主治医に相談してください。
整骨院にだけ通っていても後遺障害は認定されますか?
後遺障害の認定に必要な「後遺障害診断書」は医師のみが作成できる書類です。整骨院の柔道整復師には作成権限がありません。整骨院でのリハビリが有効な場合もありますが、整形外科への定期的な通院と、医師による可動域測定の記録が並行して必要です。
事故から時間が経って可動域制限に気づいた場合はどうすればよいですか?
できるだけ早く整形外科を受診してください。可動域制限は事故直後ではなく、ギプス除去後やリハビリの過程で顕在化することがあります。ただし、事故からあまりに時間が空くと、事故との因果関係の証明が難しくなります。
まずは違和感を感じた時点で速やかに受診し、画像検査と可動域測定を受けることが大切です。
まとめ
交通事故による可動域制限は、骨折や靭帯損傷が治った後にも残る厄介な症状です。しかし、原因を正しく特定し、適切なリハビリを継続すれば改善が見込めるケースも多くあります。
関節の動きに違和感がある方、事故後のリハビリや後遺障害診断書の作成でお悩みの方は、品川大井町整形外科・リハビリクリニックにご相談ください。整形外科専門医とリハビリ指導医の資格を持つ医師が、治療からリハビリ、症状固定の判断まで一貫してサポートいたします。