外傷性頚部症候群と後遺障害|誰が何を見て決めるのか、医療機関にできること
- 2026年10月26日
- 交通事故
事故から5か月。首の痛みと手のしびれが残っています。保険会社からは「そろそろ症状固定では」と言われました。「後遺障害」という言葉が出てきたけれど、何のことなのか、自分は何をすればよいのか分からない——。
この記事では、外傷性頚部症候群(いわゆるむちうち)における後遺障害の扱いを、順を追って説明します。誰が、何を見て、どう決めるのか。そして、医療機関にできることと、できないことをはっきりさせます。
はじめに申し上げておきます。後遺障害の等級が認定されるかどうかを、医療機関が決めることはできません。 私たちにできるのは、症状を客観的に記載した診断書を作成することです。
この記事は、大井町駅から徒歩1分の品川大井町整形外科・リハビリクリニックが、交通事故の診療の現場から「外傷性頚部症候群と後遺障害」について整理したものです。
なお、症状の経過には個人差があります。以下は一般的な制度と医療の話で、個別の判断は診察と調査によります。補償や金額に関わることは、保険会社等にご確認ください。
「外傷性頚部症候群」という病名について
交通事故の追突・衝突・急停車で頭部が前後左右に激しく動いて生じるケガは、一般にむちうち、頚椎捻挫、頚部挫傷などと呼ばれます。医学用語では外傷性頚部症候群といいます。
日本整形外科学会は、この病名についてこう説明しています。
交通事故などで頚部の挫傷(くびの捻挫)の後、長期間にわたって頚部痛、肩こり、頭痛、めまい、手のしびれなどの症状がでます。X線(レントゲン)検査での骨折や脱臼は認められません。
そして、次のようにも書いています。
「むち打ち損傷」「外傷性低髄液圧症候群」「外傷性髄液減少症」などの正確ではない病名が付いていることも少なくありません。
診断書に書かれる病名は、統一されているとは限らないということです。ご自身の診断書に何と書かれているか、一度確認しておきましょう。
「後遺障害」とは、どういう状態か

交通事故の治療は、次のどちらかで終わります。
| 内容 | |
|---|---|
| 治癒(完治) | 日常生活に支障がない状態まで症状が改善した |
| 症状固定 | それ以上の改善が見られなくなった |
そして、十分な治療をしたにもかかわらず、6か月以上症状が残っている場合や、治療を継続しても症状の改善が明らかに見られなくなった場合は、必要に応じて後遺症が残存したものと判断し、後遺障害診断書を作成します。
つまり、後遺障害の話は、治療を尽くしたあとに出てくるものです。順番が逆になることはありません。
「症状固定」と言われたら
保険会社から「そろそろ症状固定では」と言われて、戸惑う方は多いと思います。
3か月から6か月経った段階で、保険会社から治療の終了をすすめられることは少なくありません。 ただ、治るまでが治療期間であるという原則は変わりません。そして、症状の改善・回復を見込める場合、医師による医学的判断により治療を継続することもできます。
症状固定かどうかを判断するのは、医学的には医師です。 保険会社から連絡があったときは、自己判断せず、まず当院の医師にご相談ください。 これまでの経過と、いまの所見をもとに判断します。
一方で、改善が見込めない状態で治療を続けても、状況は変わりません。 その場合は、後遺障害診断書の作成という次の段階に進みます。治療の継続か終了かは、状態に応じて決まります。
誰が、何を見て決めるのか
後遺障害の等級は、医療機関が決めるものではありません。
自賠責保険の保険金(共済金)を受け取るまでの流れは、次のようになっています。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ①書類を揃える | 自動車損害賠償責任保険請求書、交通事故証明書、交通事故発生状況報告書、診断書・診療報酬明細書(医師)、印鑑証明書、後遺障害診断書(医師)、その他 |
| ②自賠責保険会社へ提出 | 損害保険会社(組合)が請求書類を確認し、損害保険料率算出機構の交通事故調査事務所に送付します |
| ③損害調査 | 調査事務所が、交通事故の発生状況、支払いの適確性(自賠責保険の対象となる事故か、傷害と事故の因果関係など)、発生した損害額などを、公正かつ中立の立場で調査します |
| ④損害報告 | 調査事務所が損害保険会社に調査結果を報告します |
| ⑤支払 | 損害保険会社が支払額を決定し、請求者に支払います |
つまり、判断するのは損害保険料率算出機構の調査事務所であり、医師でも保険会社でもありません。
そして、因果関係——このケガが事故によるものか——も、この調査の対象です。
「因果関係」がなぜ問われるのか
因果関係の有無は、患者さんが不利になりやすいポイントです。
事故から時間が経つほど、その症状が事故によるものだと説明することは難しくなります。 「事故のあと1か月経ってから痛くなった」という経過では、別の原因が疑われる余地が生まれます。
だからこそ、事故直後の受診と、その後の連続した通院が意味を持ちます。受診しなかった期間は、あとから埋められません。
また、初診のときに申告していなかった症状が、あとから出てきた場合も同じ問題が起こります。「初めからあったのに言わなかった」のか「あとから生じた」のかを、記録だけで区別することはできないためです。
「軽い症状でも、気にせず伝えてください」とお願いしているのは、こういう理由です。
医療機関にできること
医療機関の役割は、
後遺障害診断書を作成することです。そして、後遺障害診断書は、医師以外には作成できません。
作成にあたって必要なのは、次のことです。
この後遺障害の申請には、痛みなどの具体的な症状が、レントゲン画像やその他の検査などで、整形外科医師により客観的に記載されているということが必要です。
「痛い」という訴えだけでは足りない、ということです。診察所見(動かせる範囲、神経の所見)、画像、経過——これらが記録として残っていて、それが診断書に反映されている必要があります。
だからこそ、通院の記録が意味を持ちます。 途切れ途切れの通院や、記録の残らない施術では、書けるものが限られます。
書けなくなってしまう場合があります
医師のいる医療機関以外へ、届け出や許可なく通っていた場合、次のことが起こりえます。
- 医師の指示とは異なる治療が行われる
- 医師が治療効果を正しく評価・診断できない
- 結果として、保険会社から医学的に必要な治療と判断されない
そして、後遺障害診断書を発行できない場合が生じます。
当院でも、整骨院や接骨院でリハビリをされた方で、後遺障害診断書の発行のみをご希望の場合、詳細な経過・治療内容などが客観的に評価できないときには、お断りしています。
評価できないものは、客観的に記載できないためです。
とくに、骨折や脱臼と診断された場合には、接骨院や整骨院で、整形外科医の同意書なしに治療を受けることはおやめください。
いま、何をすればよいのか
症状が残っている方が、いまできることは3つです。
①通院を途切れさせない
間隔が空くと、症状の経過が追えなくなります。 治療の効果が出ているのか、それとも別の要因なのかが分からなくなるためです。また、記録が飛び飛びだと、症状の一貫性を示すことが難しくなります。
忙しくて通えない時期がある場合は、そのことを事前にお伝えください。 予定に合わせて、通院の間隔とリハビリの内容を組み立て直します。何も言わずに空いてしまうのと、相談して調整するのとでは、記録の残り方が変わります。
②症状を、そのつど正確に伝える
症状は、軽いうちから残らず伝えてください。 後になって強くなったとき、初診で触れていなかった症状は「あとから生じたもの」と見られる余地が生まれます。
とくに、次のことは診察で必ずお伝えください。
- どこが、どんなときに痛むか
- 動かせない方向はあるか(可動域の制限)
- しびれの範囲、力の入りにくさの有無
- 頭痛・めまい・吐き気の有無
- 日常生活や仕事で、できなくなったこと(具体的な場面で伝えていただけると助かります)
「毎回同じことを言うのは申し訳ない」と思われるかもしれませんが、症状が続いていることを記録に残すこと自体に意味があります。
③検査を受けておく
必要と判断すれば、CTやMRIも加えます。当院が備えているのはレントゲンだけです。 その先の撮影は東京品川病院などの連携先で受けていただき、画像データ(CD-ROM)を当院で読影します。
なお、画像で異常が写れば認められる、写らなければ認められないという単純な話ではありません。日本整形外科学会は、X線・MRIとも年齢に応じた変性変化を認めますが、外傷との関係はないとしています。画像は材料のひとつであって、症状と経過とあわせて評価されます。
後遺障害診断書に書かれること
診断書に何が書かれるのかを知っておくと、診察のときに何を伝えるべきかが分かります。おおよそ、次のような内容です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 傷病名 | 診断された病名 |
| 受傷日・治療期間 | 事故の日、通院した期間 |
| 自覚症状 | ご本人が訴えている症状 |
| 他覚所見・検査結果 | 診察で確認できた所見、画像検査の結果 |
| 可動域 | 首や手足を動かせる範囲を、角度で測ったもの |
| 神経学的所見 | 感覚、筋力、反射などの確認結果 |
| 症状固定の日 | いつの時点で固定と判断したか |
| 今後の見通し | 症状の推移についての医学的な見解 |
このうち、自覚症状は診察でお話しいただいた内容が元になります。他覚所見・可動域・神経学的所見は、診察のたびに確認して記録しているものです。
つまり、診断書を書く段階で急に作れるものではありません。 ふだんの診察の積み重ねが、そのまま中身になります。
「最後にまとめて書いてもらえばよい」と考えて通院を空けてしまうと、書ける材料が足りなくなる——これが、通院を続けていただきたい実際的な理由です。
「首の痛みは残るものなのか」
日本整形外科学会は、外傷性頚部症候群の予防と治療についてこう書いています。
骨折や脱臼がなければ、受傷後2-4週間の安静の後は頚椎を動かすことが痛みの長期化の予防となります。安静期間はできるだけ短い方がよいでしょう。慢性期には安静や生活制限は行わず、ストレッチを中心とした体操をしっかり行うことが最良の治療となります。
つまり、症状を長引かせない手立てはあります。 後遺障害の話が出てきた段階でも、体操やリハビリを続けることには意味があります。
「もう治らないから何もしない」ではなく、できることは続ける——これが、医療の側からお伝えできることです。
症状が残ったときの、生活の側の話
交通事故のあとには、痛みやしびれに加えて、次のような困りごとが出てきます。
- 集中力が低下する(長時間の作業が苦手になる)
- 痛む箇所が移動する(昨日は腰だったが、今日は首が痛む)
- 夜間や明け方に症状が出る
- 季節の変わり目や天候によって症状が出る
- 症状が消えたと思ったら、数日後にまた出る
- 運動すると痛みが増す/体の冷えに敏感になる
- 疲れやすい/眠りが浅い
これらは、診断書に書く「日常生活や仕事への支障」の材料でもありますし、そもそも治療の対象でもあります。
さらに、交通事故後は、会社からの仕事復帰の催促、保険会社からの治療費打ち切りの連絡といった、肉体的な痛み以外の負担が重なります。その結果、精神的にも追い込まれて「うつ状態」になってしまうケースもあります。
痛みの話だけが診察の内容ではありません。眠れない、気持ちが落ち着かないということがあれば、遠慮なくお話しください。当院では、保険会社や警察への対応、事務手続きについてもご相談を受けています。
当院でできること
品川大井町整形外科・リハビリクリニックは、整形外科・リハビリテーション科を掲げ、交通事故の診療に力を入れています。
- 診断・投薬・治療・リハビリ・後遺障害診断書の作成をワンストップ
- 院内のレントゲン検査
- CT・MRIが必要な場合の連携先への予約と、画像データによる診断
- 国家資格を持つスタッフによるマンツーマンのリハビリ(予約制)
- 警察に提出する診断書の当日発行
- 保険会社や警察への対応、事務手続きについてのご相談
- 紹介状がなくても転院可能
診療時間は月〜金 10:00〜14:00/16:00〜20:00、土 10:00〜14:00(休診は日曜・祝日)。平日は夜20時まで診療しています。大井町駅から徒歩1分です。
※土曜の診療・リハビリは予約制です。受付は診療終了の30分前まで(13:30/19:30)。
▶ 初めての方へ
よくある質問
Q. 後遺障害の等級は、先生が決めてくれるのですか。
A. いいえ。等級の認定は、損害保険料率算出機構の調査事務所が、公正かつ中立の立場で調査したうえで判断します。 医療機関が行うのは、症状を客観的に記載した後遺障害診断書の作成です。
Q. 診断書を書いてもらえば、必ず認められますか。
A. 診断書の作成と、等級の認定は別です。認定されるかどうかは調査の結果によります。医療機関としては、客観的な事実を正確に記載する対応に限られます。
Q. 補償の金額はどれくらいになりますか。
A. 金額に関わることは、当院ではお答えできません。保険会社等にご確認ください。
Q. 事故から6か月が近づいています。何をすればよいですか。
A. 通院を続け、症状を正確に伝えてください。そのうえで、症状固定の判断と後遺障害診断書の作成について、担当の医師とご相談ください。
Q. 転院したのですが、後遺障害診断書は書いてもらえますか。
A. 経過が客観的に評価できる場合には作成します。前医の紹介状と検査結果をお持ちいただき、転院後の通院を途切れさせないことが大切です。
Q. 整骨院に通っていました。診断書だけお願いできますか。
A. 詳細な経過・治療内容が客観的に評価できない場合には、お断りしています。これまでの記録があれば、お持ちのうえでご相談ください。
Q. 症状固定にしたら、治療は受けられなくなるのですか。
A. 自賠責保険での治療という枠組みは、そこで区切られます。ただし、症状に対する医療そのものが終わるわけではありません。その後どうするかは、状態に応じてご相談ください。
Q. 「症状固定はまだ早い」と思うのですが。
A. 改善が見込めるかどうかが判断の軸です。まだ改善している実感があるなら、そのことを診察でお伝えください。症状の改善・回復を見込める場合、医師の医学的判断により治療を継続することもできます。
Q. 手のしびれが残っています。これも記載されますか。
A. しびれは神経の症状です。範囲、程度、いつから出ているかを診察で確認し、必要に応じて検査を行ったうえで、所見として記録します。診察のたびにお伝えください。
まとめ
- 交通事故の治療は、治癒(完治)か症状固定で終わります
- 6か月以上症状が残る場合などに、後遺障害診断書を作成します
- 後遺障害診断書は、医師以外に作成できません
- 等級の認定は、損害保険料率算出機構の調査事務所が公正かつ中立の立場で調査して判断します。 医療機関でも保険会社でもありません
- 診断書には、レントゲン画像やその他の検査などにより客観的な根拠が記載されていることが必要です
- いまできることは、①通院を途切れさせない ②症状を正確に伝える ③必要な検査を受けるの3つ
- 記録の残らない施術では、書けるものが限られます
症状が残っている方は、通院を続けながら、担当の医師にご相談ください。手続きの話に気を取られて、治療そのものが止まってしまわないようご注意ください。動かすことも、記録を残すことも、どちらも並行して進められます。
外傷性頚部症候群のあとの受診や通院は、大井町駅徒歩1分の品川大井町整形外科・リハビリクリニックにご相談ください。
参考文献
- 日本整形外科学会「外傷性頚部症候群」 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/whiplash_injury.html
- 日本整形外科学会「捻挫」 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/sprain.html