交通事故で味覚障害が起きる原因と検査、後遺障害認定までの流れ
- 2026年7月24日
- 交通事故
交通事故のあと、食事の味が急に薄くなった、あるいは何を食べても同じ味に感じるようになった方は、味覚障害を起こしている可能性があります。味覚の異変は打撲や骨折のように目に見える症状ではないため、事故との結びつきを自覚しにくく、受診が遅れやすい症状のひとつです。しかし、交通事故で頭部や顔面に衝撃を受けた場合、味覚をつかさどる神経が損傷を受けて味覚障害が生じるケースは珍しくありません。
交通事故で味覚障害が起きる原因
味覚障害の原因は大きく「神経の損傷」と「舌・顎周辺の直接的な外傷」の2つに分かれます。
頭部外傷による神経の損傷
味覚は、舌で感じた味の情報を複数の神経が脳に伝えることで成立しています。舌の前方3分の2は顔面神経(鼓索神経)、後方3分の1は舌咽神経、咽頭の奥は迷走神経がそれぞれ担当しています。交通事故で頭部を強く打つと、これらの神経が走行する経路が損傷を受け、味の情報が脳に正しく届かなくなることで味覚障害が起きます。
特に頭蓋底骨折を伴う場合は、骨折線が神経の通り道に及ぶため味覚障害の発生率が高くなります。また、脳挫傷や高次脳機能障害を併発しているケースでは、味覚障害と嗅覚障害が同時に起きることがあります。嗅覚が低下すると食べ物の「風味」がわかりにくくなり、味覚障害がさらに強く感じられます。
舌や顎周辺の直接損傷
頭部外傷を伴わない場合でも、事故の衝撃で顎の骨を骨折したり、舌を強く噛んだりすることで味蕾(みらい)と呼ばれる味覚の受容器が物理的にダメージを受けることがあります。味蕾は舌の表面に分布する小さな器官で、甘味・塩味・酸味・苦味を感知しています。顎の周辺組織が損傷すると、味蕾への血流が低下して味覚が鈍る場合もあります。
亜鉛不足や薬剤が原因になることもある
交通事故後は外傷の治療のために複数の薬を服用するケースが多く、薬剤の副作用で亜鉛の吸収が妨げられることがあります。亜鉛は味蕾の細胞が正常に入れ替わるために不可欠なミネラルです。亜鉛が不足すると味蕾の新陳代謝が遅れ、味覚が鈍くなることがわかっています。
また、事故後のストレスや食事量の低下による栄養不足も味覚障害の一因になりえます。
味覚障害の種類と自覚症状のチェックポイント
味覚障害にはいくつかの種類があり、自分がどのタイプに当てはまるかを把握しておくと、受診時に医師へ正確に伝えやすくなります。
味覚障害の主なタイプ
| タイプ | 症状 |
|---|---|
| 味覚脱失 | すべての味がまったくわからなくなる |
| 味覚減退 | 味は感じるが、以前より薄く感じる |
| 解離性味覚障害 | 甘味だけわからない、苦味だけわからないなど特定の味質のみ障害される |
| 自発性異常味覚 | 何も食べていないのに口の中で苦味や金属味がする |
| 悪味症 | 特定の食べ物が本来と異なる不快な味に感じる |
交通事故後に最も多いのは「味覚減退」と「味覚脱失」です。解離性味覚障害は1つの味質だけが感じにくくなるため、日常生活の中で気づかずに過ごしているケースが少なくありません。
自分で気づくためのポイント
味覚障害は痛みを伴わないため、本人が見逃しやすい症状です。以下の変化に思い当たる場合は、味覚に問題が生じている可能性があります。
- 食事が以前よりおいしくないと感じる
- 味付けが薄いと感じて調味料を増やすようになった
- 甘い・しょっぱいなど特定の味だけがわかりにくい
- 何も口にしていないのに苦味や金属のような味がする
- 家族に「味付けが変わった」と指摘された
事故後2週間以上これらの症状が続いている場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。味覚障害は時間が経つほど事故との因果関係の証明が難しくなるため、少しでも違和感があれば記録に残しておいてください。
味覚障害に気づいたらどこを受診するか
交通事故後の味覚障害は、整形外科と耳鼻咽喉科の連携が大切です。
まず整形外科で事故による外傷の全体像を把握する
交通事故に遭った場合、最初に受診すべきは整形外科です。頚椎のけが(むちうち)、骨折、打撲など、外傷全体の状態を把握し、頭部への衝撃の有無を診断することが、味覚障害の原因を特定する起点になります。整形外科でレントゲンやMRI、CT撮影を行い、頭蓋底骨折や頚椎損傷の有無を確認します。
味覚障害は頭部外傷に伴って発生するケースが多いため、事故直後の整形外科での診察記録が、後の後遺障害認定の重要な根拠になることを覚えておいてください。事故直後には痛みやけがの方に意識が向きがちですが、味覚の変化についても初回の診察時に医師へ伝えることが大切です。
味覚の精密検査は耳鼻咽喉科で受ける
味覚障害の精密検査を専門的に行えるのは耳鼻咽喉科です。整形外科の担当医から耳鼻咽喉科への紹介状を書いてもらい、ろ紙ディスク法などの検査を受けることで味覚障害の程度と範囲が客観的に明らかになります。
整形外科と耳鼻咽喉科の双方で診療を受けることで、「事故で頭部に衝撃を受けた」→「その結果として味覚障害が生じた」という因果関係を医学的に裏付ける記録が残ります。この記録がそろっていないと、後遺障害の認定申請で不利になることがあります。
味覚障害の検査方法
後遺障害の認定を受けるには、客観的な検査で味覚障害を証明する必要があります。検査方法は主に2つあります。
ろ紙ディスク法(後遺障害認定で重視される検査)
ろ紙ディスク法は、甘味(ブドウ糖液)、塩味(食塩水)、酸味(酒石酸)、苦味(塩酸キニーネ)の4種類の味をしみ込ませた小さなろ紙を舌の特定部位に置き、どの味かを答える検査です。各味に対して薄い濃度から濃い濃度まで5段階の試験液が用意されています。
後遺障害の認定ではこのろ紙ディスク法の結果が最も重視されるため、味覚障害を訴える場合には必ず耳鼻咽喉科でこの検査を受けてください。
検査の判定基準は以下のとおりです。
| 濃度段階 | 判定 |
|---|---|
| 1〜3で正しく答えられる | 正常範囲 |
| 4で正しく答えられる | 軽度の味覚減退 |
| 5で正しく答えられる | 中等度の味覚減退 |
| 5でも答えられない | 味覚脱失 |
検査は舌を左右3領域に分け、計6か所で実施されます。所要時間は20〜40分程度です。
電気味覚検査
舌の表面に微弱な電流を流し、味覚の神経がどの程度反応するかを調べる検査です。左右の差を測定できるため、神経の損傷部位を推定するのに役立ちます。ただし、自賠責保険の後遺障害認定ではろ紙ディスク法の結果が判断基準とされており、電気味覚検査の結果だけでは認定を受けることが難しい点に注意が必要です。
電気味覚検査はあくまで補助的な検査として、ろ紙ディスク法とセットで受けるのが一般的です。
交通事故の味覚障害で認められる後遺障害等級
味覚障害は自賠責保険の後遺障害等級表に直接の記載がありません。しかし、等級表に記載がない障害であっても「相当等級」として認定される制度があり、味覚障害はこの制度を通じて以下の等級に該当する可能性があります。
12級相当:味覚脱失
ろ紙ディスク法で甘味・塩味・酸味・苦味の4味質すべてが最高濃度でも認知できない場合、「味覚脱失」として後遺障害12級相当に認定されます。弁護士基準(裁判所基準)での後遺障害慰謝料は290万円、労働能力喪失率は14%が原則です。
14級相当:味覚減退
4味質のうち1種類以上が最高濃度でも認知できない場合、「味覚減退」として後遺障害14級相当に認定されます。弁護士基準での後遺障害慰謝料は110万円、労働能力喪失率は5%が原則です。
逸失利益は職業によって判断が変わる
味覚障害の逸失利益(後遺障害によって将来の収入がどの程度減少するかを賠償するもの)は、被害者の職業によって評価が大きく異なります。調理師、パティシエ、ソムリエなど味覚が業務に直結する職業では高い労働能力喪失率が認められやすい一方、事務職など味覚と業務の関連が薄い職業では逸失利益が制限される傾向があります。
ただし、味覚障害によって日常生活の質が低下している事実は、職業と無関係に慰謝料の増額事由として考慮される場合があります。
交通事故の味覚障害に関するよくある質問
味覚障害は時間が経てば自然に治りますか?
外傷の程度と原因によって異なります。舌や口腔内の軽い損傷による味覚障害は、組織の回復とともに改善に向かうケースが多いです。一方、頭部外傷によって神経が損傷された場合は回復に時間がかかり、数ヶ月から1年以上経っても症状が残ることがあります。
亜鉛不足が原因の味覚障害であれば、亜鉛製剤の内服治療で改善が期待でき、一般的に3〜6ヶ月程度の治療期間が目安です。いずれの場合も、味覚の異変を放置せず早期に専門医の診察を受けることが回復の可能性を高めます。
味覚障害の治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
原因によって異なります。亜鉛不足が原因の場合は、亜鉛製剤の内服治療を3〜6ヶ月程度続けることで改善が期待できます。神経損傷が原因の場合はビタミンB12製剤などの神経回復を促す薬が使われますが、改善までに半年から1年以上かかることもあり、完全には回復しないケースもあります。
治療の効果を確認するために、通院中は定期的にろ紙ディスク法で味覚の変化を記録してもらうことが大切です。
味覚障害があるとき、食事で気をつけることはありますか?
味覚が鈍くなると調味料を増やしがちですが、塩分や糖分の過剰摂取につながるため注意が必要です。味の濃さよりも食材の食感や温度、香りを意識すると食事を楽しみやすくなります。また、亜鉛を多く含む食品(牡蠣、牛肉、ナッツ類など)を意識的に摂ることで味蕾の回復を助ける可能性があります。
栄養バランスが偏っていると感じる場合は、担当医に亜鉛製剤の処方について相談してみてください。
まとめ
交通事故による味覚障害は、頭部外傷や顎周辺の損傷によって神経や味蕾がダメージを受けることで起こります。痛みのように自覚しやすい症状ではないため、事故後に「食事の味がおかしい」と感じた場合は、その違和感を軽視せずに担当医へ伝えてください。
品川大井町整形外科・リハビリクリニックでは、交通事故後のけがや不調に対して、院内でのレントゲン検査と提携先の病院でのMRI・CT撮影による精密な診断、リハビリテーションを含めた総合的な治療を行っています。味覚の異変を含め、事故後に気になる症状があればお気軽にご相談ください。