むちうちの治療は整形外科で何をするのか|「安静」より「動かす」が要になる理由
- 2026年10月22日
- 交通事故
追突されてから2週間。首の痛みと肩のこりが取れません。安静にしていたほうがよいのか、動かしたほうがよいのか——どちらの話も見かけて、判断がつかない。
この問いには、はっきりした答えがあります。骨折や脱臼がなければ、安静はできるだけ短くして、早めに動かし始める——これが、いま整形外科で共有されている考え方です。
なお、症状の出方や経過には個人差があります。ここに書いたことは一般的な考え方であり、実際の治療は診察のうえで決まります。
むちうちの正式な病名は「外傷性頚部症候群」です
「むちうち」は通称です。一般にはむち打ち、頚椎捻挫、頸部挫傷などと呼ばれ、医学用語では外傷性頚部症候群といいます。
交通事故での追突・衝突・急停車の際に、頭部が前後左右に激しく動くことで生じます。
日本整形外科学会の説明では、症状はこうまとめられています。
交通事故などで頚部の挫傷(くびの捻挫)の後、長期間にわたって頚部痛、肩こり、頭痛、めまい、手のしびれ、などの症状がでます。
首(頚部)にはさまざまな神経が通っているため、「首の痛み」だけでなく、頭痛、めまい、吐き気、手先のしびれといった症状が生じることもあります。
なお、学会は「むち打ち損傷」「外傷性低髄液圧症候群」「外傷性髄液減少症」などの正確ではない病名が付いていることも少なくないと指摘しています。名前が複数あることで混乱しやすい領域です。
首の中で、何が起きているのか
「レントゲンで異常なし」と言われた方が納得しにくいのは、ここが見えないためです。
学会は、受傷の仕組みをこう説明しています。
受傷時に反射的に頚椎に対する損傷を避ける防御のための筋緊張が生じ、衝撃の大きさによっては筋の部分断裂や靭帯の損傷が生じています。
つまり、筋肉や靭帯には実際に傷がついていることがあります。ただし、X線(レントゲン)検査での骨折や脱臼は認められません。筋肉も靭帯も、レントゲンには写らないためです。
痛みは、気のせいではありません。写らないだけです。
整形外科で最初にやること — 骨折と脱臼の確認
治療の前に、確かめることがあります。骨折や脱臼がないことです。
学会も、骨折や脱臼がないことの確認が必要であるとしています。まずレントゲン検査で骨の異常を調べます。受傷直後の状態を記録として残す意味もあります。
必要に応じて、CTやMRIを追加します。院内にあるのはレントゲンで、CT・MRIは置いていません。撮影は東京品川病院などの医療連携先を当院で手配し、画像データ(CD-ROM)をもとに当院で読影します。必要と判断した日に、そのまま撮影まで進められることもあります。
画像の読み方には注意が要ります
学会は、こう書いています。
X線・MRIとも年齢に応じた変性変化を認めますが、外傷との関係はありません。
さらに、頚椎症による骨棘があると、MRIでは椎間板の後方への膨隆に見えるため、誤って「椎間板ヘルニア」と診断される場合もあります。
画像に何か写っている=事故によるもの、ではありません。症状・所見・経過を合わせて判断します。
治療の柱は3つです
骨折や脱臼がないと分かったら、治療に入ります。整形外科で行うのは、大きく次の3つです。
| 柱 | 内容 |
|---|---|
| ①薬・注射 | 痛みと炎症を抑えます。急性期にとくに重要です |
| ②運動器リハビリテーション | 医師の管理のもと、動かしていく治療です |
| ③物理療法 | 牽引、低周波、干渉波、マイクロ波、温熱療法などを行います |
当院では、急性期(事故直後)や受傷部位の痛みが強い場合は、まず痛みを和らげ、炎症を抑えることを優先します。症状が少し軽減したあと、なるべく早く医師の監督のもとで、運動器リハビリテーション(運動療法)と物理療法を組み合わせて追加していきます。
リハビリは、医学的根拠にもとづいた骨・筋肉・靭帯・関節・軟骨・神経の運動器リハビリテーションを行うことができる国家資格を持った専門療法士が担当します。予約制のマンツーマンで進めます。
なぜ「動かす」ことが治療になるのか
日本整形外科学会の記述を、そのまま引きます。
骨折や脱臼がなければ、受傷後2-4週間の安静の後は頚椎を動かすことが痛みの長期化の予防となります。安静期間はできるだけ短い方がよいでしょう。
そして、慢性期については、
慢性期には安静や生活制限は行わず、ストレッチを中心とした体操をしっかり行うことが最良の治療となります。
「治るまで安静にする」ではありません。短い安静のあとは、動かすほうが痛みを長引かせずに済む、というのが基本の考え方です。
安静を続けると、どうなるのか
学会は、反対に次のような注意点も示しています。
受傷後しばらくの間(1〜3か月)は局所に痛みが生じますが、この期間に局所を安静にする習慣がつけば痛みが長引く原因となります。
さらに、固定具についても指摘があります。
骨折や脱臼がないのに長期にわたって頚椎のカラー装着を行うと、頚部痛や肩こりが長期化する原因となります。
つまり、「痛いから動かさない」を続けることが、そのまま痛みを長引かせるという関係があります。カラー(首の固定具)についても、長く着け続けることが正解とは限りません。
もちろん、受傷直後に必要な安静はあります。期間と程度は、症状と所見に応じて医師が判断します。自己判断で「まだ動かさないほうがよい」と決めないでください。そこがずれると、遠回りになります。
骨折があった場合も、考え方は同じです
学会は、骨折についてもこう書いています。
骨折部がグラグラしない限りは、その周囲の関節や筋肉は動かした方が良い場合が多く、必要以上の安静はかえってよくありません。
固定が必要な部分と、動かしてよい部分を分けて考える——これが整形外科の見方です。首についても同じで、「首だから全部動かさない」のではなく、どこまでなら動かしてよいかを決めていきます。
通院の頻度と、治療にかかる期間
具体的な数字をお伝えします。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 通院頻度(最初の3か月) | 週3回以上(〜5回) |
| 治療開始から1か月間 | できるだけ毎日、または2日に1回 |
| 1回のリハビリ時間 | 20分刻み。目安は40分〜1時間程度 |
| むちうちの治療期間 | 3か月〜6か月が基本。長い例では1年以上 |
ただ、受傷から早い時期にどれだけリハビリに通えたかが、そのあとの経過に大きく影響します。最初はなるべく通っていただき、早めに症状を緩和し、徐々に通院頻度を減らしていく——これが基本の進め方です。
通えるかどうかは、現実的には診療時間で決まります。当院は平日夜20時まで診療しており、月〜土は終日リハビリを行っています。リハビリは予約制ですので、待ち時間なく予定どおりに受けていただけます。
時期ごとに、やることが変わります
「動かす」といっても、いきなり全力で動かすわけではありません。時期に応じて内容が変わります。
| 時期 | 目安 | 治療の中心 |
|---|---|---|
| 急性期 | 受傷直後〜数週間 | 痛みを和らげ、炎症を抑える。 必要な範囲の安静 |
| 回復期 | 安静のあと | 動かせる範囲を広げる。 運動器リハビリと物理療法 |
| 慢性期 | 症状が残る時期 | 安静や生活制限は行わず、ストレッチを中心とした体操 |
「痛みが完全に消えてから動かす」わけではありません。日本整形外科学会が示しているのは、受傷後2〜4週間の安静のあとに動かし始めるという順序です。痛みが残っていても、動かせる範囲から始めます。
そして、動かす範囲は診察とリハビリの中で決めます。「どこまでやってよいか」が分かることが、安心して動かすための前提になります。
症状の変化は、そのつど伝えてください
交通事故のあとには、痛む場所が移動する(昨日は首、今日は肩)、夜間や明け方に症状が出る、天候によって変わる、消えたと思ったら数日後にまた出るといったことが起こります。
これは珍しいことではありません。ただ、治療の内容を調整する材料になりますので、「前回と同じです」で済ませず、変わったことは教えてください。
また、頭痛・めまい・吐き気といった症状や、手のしびれ・力の入りにくさが出てきた場合は、必ずお伝えください。追加の検査を検討します。
自宅でやることも、治療のうちです
学会が「ストレッチを中心とした体操をしっかり行うことが最良の治療」としている以上、通院日以外の過ごし方が結果を左右します。
当院では、リハビリに加えて、自宅でできるセルフケア・ストレッチのアドバイスを行っています。
ただし、自己流で始めないでください。症状の時期によって、やってよいことと避けたほうがよいことが変わります。何を、どの範囲で、どれくらいやるかは、診察とリハビリの中でお伝えします。
とくに、痛みを我慢して強く伸ばす、首を勢いよく回すといったやり方は避けてください。動かすことが治療になるのは、適切な範囲と方法で行った場合の話です。「痛気持ちいい」を超えないところで、こまめに続けるほうが結果につながります。
併用について
当院では、医学的根拠のある理由を除き、整骨院や接骨院との併用はお断りしています。医師の管理のもとでリハビリスタッフが治療を行っているためです。
理由はもうひとつあります。整骨院や接骨院で施術を受けられた方で、詳細な経過・治療内容などが客観的に評価できない場合、後遺症診断書をお書きできないことがあります。これは、客観的に評価できない経過については、医学的に正確な記載が困難となるためです。
また、運動器リハビリテーションでは、主たる医療機関での治療が中心になります。掛け持ちや交互の通院は、治療の管理という点でうまくいきません。
痛み以外のことも、治療の対象です
むちうちの治療は、首の痛みだけにとどまりません。
交通事故のあとは、精神的なショックがあり、そのストレスから身体症状が現れ、さらに悪化することもあります。
さらに、事故後には肉体的な痛み以外の負担が重なります。
- 会社からの仕事復帰の催促
- 保険会社からの治療費打ち切りの連絡
- 警察や保険会社への対応・事務手続き
- 「いつ治るのか分からない」という不安
これらが重なって、精神的にも追い込まれて「うつ状態」になってしまうケースもあります。
当院では、投薬・注射・リハビリによって、まずは痛みなどの症状を軽くすることで、少しでも早く体だけでなく心の健康も取り戻すお手伝いをしたいと考えています。眠れない、気持ちが落ち着かないといったことがあれば、遠慮なくお話しください。
また、保険会社や警察への対応、事務手続きについても、当院では医師・スタッフともに対応しています。慣れないことに戸惑うのは当然ですので、分からないことはお尋ねください。
治療の終わり方
治療は、治癒(完治)か症状固定のどちらかで終わります。
- 治癒——日常生活に支障がない状態まで症状が改善した
- 症状固定——それ以上の改善が見られなくなった
3か月から6か月経った段階で、保険会社から治療の終了をすすめられることが少なくありません。しかし、本来は治るまでが治療期間です。症状の改善・回復を見込める場合、医師による医学的判断により治療を継続することもできます。
保険会社から連絡があったときは、自分で判断せず、まず担当の医師にご相談ください。診察と経過の記録から判断します。
なお、十分な治療をしたにもかかわらず6か月以上症状が残っている場合や、治療を継続しても改善が明らかに見られなくなった場合は、必要に応じて後遺障害診断書を作成します。後遺障害診断書は、医師以外に作成できません。
当院でできること
品川大井町整形外科・リハビリクリニックは、整形外科・リハビリテーション科を掲げ、交通事故の診療に力を入れています。
- 院内のレントゲン検査による骨折・脱臼の確認
- 投薬・注射による痛みと炎症への対応
- 国家資格を持つスタッフによるマンツーマンの運動器リハビリテーション(予約制)
- 物理療法(牽引・低周波・干渉波・マイクロ波・温熱療法)
- 自宅でできるセルフケア・ストレッチの指導
- CT・MRIが必要な場合の連携先への予約と、画像データによる診断
- 警察に提出する診断書の当日発行、後遺障害診断書の作成
- 交通事故の当日初診予約(直通ダイヤル 03-6433-9670/WEBでも可。自賠責保険のみ)
診療時間は月〜金 10:00〜14:00/16:00〜20:00、土 10:00〜14:00(休診は日曜・祝日)。大井町駅から徒歩1分、品川駅から3分です。
※土曜の診療・リハビリは予約制です。受付は診療終了の30分前まで(午前は13:30/午後は19:30)。
▶ 初めての方へ
よくある質問
Q. 痛いのに動かして、悪化しませんか。
A. やってよい範囲を決めたうえで動かします。自己流で無理に動かすのとは違います。リハビリでは、動かせる範囲を確認しながら少しずつ広げていきます。
Q. 首のカラーはずっと着けたほうがよいですか。
A. 骨折や脱臼がないのに長期にわたってカラーを着けると、頚部痛や肩こりが長期化する原因になるとされています。着ける期間は診察のうえで判断します。
Q. 湿布と痛み止めだけで治りますか。
A. 急性期には有効ですが、それだけで終わらせると、動かす段階に進めません。症状が落ち着いてきたら、リハビリに移行します。
Q. 事故から1か月経ちました。いまからリハビリを始めても間に合いますか。
A. 始めてください。早いほうが有利なのは確かですが、慢性期にはストレッチを中心とした体操が最良の治療とされています。気づいた時点から早めに始めましょう。
Q. マッサージだけ受けたいのですが。
A. 当院のリハビリは、医師の管理のもとで組み立てた運動器リハビリテーションです。手技も含みますが、それだけを目的とした施術は行っていません。
Q. 仕事は休んだほうがよいですか。
A. 症状によります。痛みが強い時期は無理をしないほうがよいのですが、必要以上の安静はかえってよくありません。仕事の内容もふまえてご相談ください。
Q. 運動やスポーツは、いつから再開できますか。
A. 症状と時期によります。痛みが引いたからといって、いきなり元のレベルに戻すと、別のところを痛めることがあります。日本整形外科学会も、捻挫からのスポーツ復帰について、ブランクの間に低下した運動機能を再び獲得していくためのリハビリテーションが必要であるとしています。段階を踏んで戻していきましょう。
Q. 電気治療や牽引は効果がありますか。
A. 物理療法は、痛みを和らげ、運動療法をやりやすくするための手段です。それ単独で完結するものではなく、運動器リハビリテーションと組み合わせて使います。
Q. 頭痛やめまいも診てもらえますか。
A. むちうちに伴う頭痛・めまいは、診察の対象です。ただし、意識の異常、繰り返す嘔吐、けいれんがある場合は、救急医療機関へお急ぎください。
まとめ
- むちうちの正式な病名は外傷性頚部症候群。首の痛みだけでなく、頭痛・めまい・しびれも生じます
- 受傷時には筋の部分断裂や靭帯の損傷が起きていることがありますが、レントゲンには写りません
- まず骨折や脱臼がないことを確認します。画像の変性変化と外傷は別物です
- 治療の柱は、①薬・注射 ②運動器リハビリテーション ③物理療法
- 骨折や脱臼がなければ、受傷後2〜4週間の安静のあとは動かすことが痛みの長期化の予防になります
- 慢性期には安静や生活制限は行わず、ストレッチを中心とした体操が最良の治療とされています
- 通院は最初の3か月で週3〜5回。治療期間は3〜6か月が基本で、長い例では1年以上
首の痛みが続いている方は、整形外科にご相談ください。自己判断で放置せず、まずは適切な運動範囲を診察で確認することが重要です。動かしてよい範囲を知るところから始めましょう。
むちうちのあとの受診や通院は、大井町駅徒歩1分の品川大井町整形外科・リハビリクリニックにご相談ください。
参考文献
- 日本整形外科学会「外傷性頚部症候群」 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/whiplash_injury.html
- 日本整形外科学会「骨折」 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/bone_fracture.html
- 日本整形外科学会「捻挫」 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/sprain.html