交通事故で健康保険は使えない?使える根拠と損をしないための判断基準
- 2026年7月3日
- 交通事故
「交通事故のケガには健康保険が使えない」という話を聞いたことがある方は多いかもしれません。結論から言えば、これは誤りです。交通事故によるケガでも健康保険は使えますし、ケースによっては使ったほうが手元に残る賠償金が増えることもあります。
ただし、使えないケースや使わないほうがよい場面も存在するため、自分がどちらに当てはまるかを正しく判断できることが大切です。
交通事故で健康保険が「使えない」は本当か
「交通事故では健康保険が使えません」と言われた経験がある方がいるかもしれませんが、法的には明確に使えます。ここでは、なぜ使えるのか、なぜ「使えない」という誤解が広がったのかを整理します。
法律上、交通事故でも健康保険は使える
昭和43年(1968年)に当時の厚生省保険局から出された通知(「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」保険発第106号)は、「自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりがなく、保険給付の対象となるものである」と明記しています。つまり、風邪で病院にかかるのと同じように、交通事故のケガにも健康保険は使えるのです。
この通知は、健康保険法や国民健康保険法がそもそも交通事故による医療費の給付を除外していないことを改めて確認したものです。法律上、交通事故のケガは保険給付の対象外ではありません。
なぜ「使えない」と言われるのか
「交通事故に健康保険は使えない」という誤解が広がる原因は、加害者側の任意保険会社による「一括対応」の仕組みにあります。交通事故の被害者になった場合、通常は加害者側の任意保険会社が医療機関に治療費を直接支払います。この場合、治療は自由診療として行われ、被害者の窓口負担はゼロになります。
健康保険を使う場面がないまま治療が進むため、「交通事故では健康保険は使えない」という誤解が生まれやすいのです。実際には、健康保険を使うかどうかは治療費の支払い方法の選択であって、法律上の制限ではありません。
交通事故で健康保険が使えないケース
原則として健康保険は使えますが、例外もあります。「使えない」に該当するケースを正しく知っておくことで、不要な不安を防げます。
業務中・通勤中の事故は健康保険の対象外
仕事中や通勤途中に起きた交通事故によるケガには、健康保険ではなく労災保険が適用されます。この場合は健康保険を使うことはできません。勤務先の労災担当に連絡し、労災保険の手続きを行ってください。
飲酒運転や無免許運転など重大な過失がある場合
被害者自身に故意または重大な過失がある場合、たとえば飲酒運転や無免許運転が原因の事故では、健康保険の給付が制限される場合があるため注意が必要です。健康保険法では、故意の犯罪行為や故意に事故を起こした場合の給付制限が定められています。通常の過失(信号の見落としなど)では制限されませんが、法律に違反する行為が原因の場合は取り扱いが変わります。
交通事故で健康保険を使うメリット
健康保険を使わない自由診療と比べて、健康保険を使うことには具体的な金銭面のメリットがあります。特に、加害者が任意保険に入っていない場合や、被害者に過失割合があるケースでは、その差が大きくなります。
加害者が無保険のとき、自賠責の120万円が実質的な上限になる
交通事故の傷害に対する自賠責保険の支払い限度額は、被害者1名あたり120万円です。この120万円には治療費だけでなく、休業損害や慰謝料(1日あたり4,300円)もすべて含まれます。
加害者が任意保険に加入していれば、120万円を超えた分は任意保険がカバーするため、この枠をどう使うかはそこまで問題になりません。しかし、加害者が任意保険に入っていない場合、120万円を超えた分は加害者本人に請求するしかなく、回収できないリスクがあるため、120万円の枠の使い方が重要になります。
自由診療で治療費が膨らむと、120万円の大部分が治療費に消え、慰謝料や休業損害に回す枠が残りません。健康保険を使えば治療費を圧縮できるため、同じ120万円の中で慰謝料や休業損害に充てられる金額が増えます。加害者が無保険かどうかは事故直後にはわからないこともあるため、早めに健康保険の利用を検討しておくことが大切です。
過失割合があるときの自己負担を減らせる
交通事故では、被害者にも過失割合が認められることがあります。たとえば過失割合が8(加害者):2(被害者)の場合、被害者は治療費の20%を自己負担しなければなりません。
自由診療で治療費が100万円なら、被害者の自己負担は20万円です。ところが健康保険を使えば、治療費の総額は保険適用で約半額の50万円程度に圧縮されるため、その20%である10万円が被害者の負担になります。過失割合がある場合、健康保険を使うだけで自己負担額が大幅に減るのです。
自分にまったく過失がない事故(10:0) でない限り、健康保険を使うかどうかは手元に残る賠償金の額に直結します。
高額療養費制度も使える
健康保険を使って治療を受けていれば、高額療養費制度の対象にもなります。この制度では月ごとの医療費の自己負担額に上限が設けられており、上限を超えた分は払い戻されます。上限額は年齢と所得で決まり、たとえば70歳未満で年収約370〜770万円であれば、医療費が月100万円かかっても自己負担は約8.7万円が上限となります。
骨折や手術が必要な重症のケガで治療費がかさむケースでは、この制度によってさらに負担を軽くできます。
健康保険を使わないほうがよいケースもある
健康保険を使うメリットは大きいですが、すべてのケースで使うべきとは限りません。
過失割合がゼロで加害者が任意保険に加入している場合
被害者の過失が完全にゼロで、加害者が任意保険に加入している場合、治療費は加害者側の保険から全額支払われます。この場合、わざわざ健康保険を使わなくても被害者の持ち出しは発生しません。「一括対応」で窓口負担がゼロの状態であれば、健康保険を使う手間をかけなくてもよい場面です。
ただし、治療が長期化して保険会社から治療費の打ち切りを打診された場合は状況が変わります。打ち切り後も治療を続ける必要があるなら、そのタイミングで健康保険への切り替えを検討することが重要です。
健康保険が適用されない治療を受ける場合
健康保険には適用範囲があり、保険診療として認められていない治療は健康保険では受けられません。たとえば、先進医療に分類される治療や、一部の特殊な処置は自由診療でしか対応できないことがあります。こうしたケースでは、治療の選択肢を狭めないために自由診療を選ぶ判断も合理的です。
ただし、交通事故によるケガの治療は大半が保険診療の範囲内で対応できるため、このケースに該当する方は限られます。
健康保険を使うための手続き
交通事故で健康保険を使うには、通常の受診手続きに加えて「第三者行為による傷病届」という届出の提出が必要です。届出の仕組みと、必要な書類を順に説明します。
なぜ届出が必要なのか
交通事故のケガの治療費は、本来は加害者が支払うべきものです。健康保険を使って治療を受けると、健康保険組合(または国民健康保険の保険者)が治療費を一時的に立て替えた形になります。「第三者行為による傷病届」は、この立て替えが起きたことを保険者に届け出る書類です。
届出を受けた保険者が、立て替えた治療費を後日加害者(または加害者側の保険会社)に請求します。
つまり、この届け出は「被害者が損をしないため」ではなく、健康保険の保険者側が加害者に治療費を求償するために必要な手続きです。
提出する書類と手続きの流れ
提出先は、加入している健康保険の保険者(協会けんぽの各都道府県支部、または勤務先の健康保険組合、市区町村の国民健康保険窓口)です。
必要な書類は以下のとおりです。
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 第三者行為による傷病届 | 事故の相手方や経緯を記載する届出書 |
| 事故発生状況報告書 | 事故の発生場所・状況・過失割合を記載 |
| 同意書 | 個人情報の提供や示談前の報告に関する同意 |
| 交通事故証明書 | 自動車安全運転センターが発行する事故の証明書 |
| 人身事故証明書入手不能理由書 | 事故証明書が物件事故扱いの場合のみ必要 |
書類をすべてそろえるのに時間がかかる場合は、まず電話で事故の状況を保険者に伝え、後日書類を提出する形でも受け付けてもらえます。手続きが不安な方は、保険者の窓口に電話すれば記入方法を案内してもらえるので、先に連絡してみてください。
自由診療から健康保険への切り替えはできるか
治療途中で自由診療から健康保険に切り替えることは可能です。たとえば、最初は加害者側の任意保険の一括対応で治療を始めたものの、途中で打ち切りを告げられたケースや、過失割合が決まって自己負担が発生することがわかったケースなどが該当します。
切り替えを行う場合は、まず医療機関に「今後は健康保険を使って治療を受けたい」と伝えます。同時に、第三者行為による傷病届を保険者に提出します。自由診療から保険診療への切り替えは法律上いつでも可能ですので、「最初に自由診療で始めたから変えられない」ということはありません。
ただし、すでに自由診療で支払った治療費をさかのぼって保険診療に変更することは原則としてできません。切り替えるなら早い段階で判断するほうが、結果的に有利になります。
交通事故の健康保険に関するよくある質問
交通事故で健康保険を使った場合、示談に影響はありますか?
健康保険を使ったこと自体が示談交渉で不利に働くことはありません。示談金は治療費・慰謝料・休業損害などを合算して算定されるため、治療費の支払い方法が変わっても賠償額の計算基準は同じです。ただし、示談成立前に「第三者行為による傷病届」を保険者に提出しておく必要があるため、届出が済んでいるかは確認しておいてください。
交通事故で健康保険を使うと慰謝料は減りますか?
健康保険を使ったからといって慰謝料が減ることはありません。慰謝料は通院日数や治療期間に基づいて算定されるもので、保険診療か自由診療かは関係がありません。加害者が無保険の場合など自賠責保険の120万円が実質的な上限になるケースでは、治療費を抑えることで慰謝料に回せる枠が増えるメリットもあります。
整骨院(接骨院)でも健康保険は使えますか?
整骨院では、骨折・脱臼(応急手当を除き医師の同意が必要)、打撲、捻挫に対して健康保険が適用されます。ただし、交通事故のケガでは医師の診断が損害賠償や後遺障害の認定に必要になるため、まず整形外科で診察・検査を受けたうえで、必要に応じて整骨院と併用する形が一般的です。
まとめ
交通事故で「健康保険は使えない」という情報は誤りであり、法的に明確に使えます。使える場面と使えない場面を正しく知っておくことで、治療費の負担を抑え、手元に残る賠償金を増やすことができます。
判断のポイントは、自分に過失割合があるかどうかと、加害者が任意保険に加入しているかどうかの2点です。どちらかに不安がある場合は、治療の早い段階で健康保険への切り替えを検討してください。
品川大井町整形外科・リハビリクリニックでは、交通事故によるケガについて、自賠責保険での治療に対応しています。院内でのレントゲン検査に加え、提携先の病院でのMRI・CT撮影にも対応しており、整形外科専門医の診断に基づいた治療とリハビリテーションを行っています。事故後の治療でお困りの方はお気軽にお問い合わせください。